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伊藤華英が語るピーキングの苛酷さ。
「五輪1年延期」の見えない側面。
text by
伊藤華英Hanae Ito
photograph byGetty Images
posted2020/04/09 11:50
瀬戸大也のような選手でさえ、日本選手権の一発勝負を経なければ五輪には出られない。それだけに調整は苛酷を極めるのだ。
ピーキングには3つの種類がある。
学術的に、ピーキングには心理的コンディショニング、身体的コンディショニング、技術的コンディショニングが必要だと言われている。
そして心理的側面には12の特徴があり、身体的リラックス・落ち着き・不安の解消・意欲・楽観的な態度・楽しさ・無理のない努力・自然なプレイ・注意力・精神集中・自信・自己コントロールと調整項目は多岐にわたる。
これらを整えるための栄養面や生理面での研究も進んでいて、ピークパフォーマンスを発揮するには、練習の中で日常的に継続してコンディションを調整していく必要があると明らかになっている。つまり、オリンピックへ向けて生活の全てを細かく管理するのだ。
生活の全てを捧げる必要がある。
自分の現役時代を振り返ると、まずは4年ごとのオリンピック、世界選手権は2年ごと、日本選手権は1年ごとにあり、他にも自分が出場する世界中の試合を元に合宿などのスケジュールを立てる。合宿も国内だけではなく、海外、高地などからその時最適なものを選ぶ。
毎日の練習を自信につなげるためには、コーチやチームメイトといい関係を築くことも大切なことだ。
トレーニングだけではなくメンテナンスも必要で、息抜きさえも全てはオリンピックのためだ。想像しづらいかもしれないけれど、0.01秒を縮めるために、後悔しないためには完璧な準備には必要なのだ。
とりわけ最後の最後の1カ月は本当に重要な調整だ。よくコーチがこのテーパリング(最終調整)の時期に言ってくれたことがある。
「調子がいい時は慎重に。調子が悪い時は大胆に行動しよう」
私の場合は、最後に運が味方してくれるように、楽しいことを我慢したりもしていた。逆に楽しい気持ちを作ることを心掛けていた人もいるかもしれない。個々人の考え方によって行動は違うが、本当に些細なことまで気にして神経をすり減らしていることは変らない。