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「選手が一軍に帯同」は間違いです。
毎日新聞校閲センターに聞く“誤用”。

posted2020/04/10 15:00

 
「選手が一軍に帯同」は間違いです。毎日新聞校閲センターに聞く“誤用”。<Number Web> photograph by Tomosuke Imai

新聞の校閲というと厳格な雰囲気かと思いきや、いたって人当たりの柔らかな方々が教えてくれた。右から川合寛さん、宮城理志さん、林弦さん。

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中村計

中村計Kei Nakamura

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Tomosuke Imai

 Twitterで難読漢字や間違えやすい言葉のクイズを出したり、時にはフォロワーと一緒に新しい言葉使いを探るなど、校閲という世界を多くの人に紹介して人気になっている「毎日新聞校閲センター」。
 スポーツの世界も日々新しい言葉が生まれる世界ですが、中には誤用のまま広がっていくものも含まれています。
 言葉の番人たる「校閲さん」は、そんなスポーツ界の言葉たちをどう見ているのでしょうか。
※本文中A=林弦さん、B=宮城理志さん

――ずっと違和感があったのですが、スポーツの世界で選手が成長することを頻繁に「進化」と表現します。あまりにもオーバーではないですか。

A)恐竜など、世代をまたいだ変化という印象があるからでしょうね。でも、そこは比喩として当たり前の表現になってきているので、新聞では許容しています。

B)ただ、乱用しないようにはしていますね。

――それに関連し、「進化」の反対語として「退化」を用いるのも目立ちますよね。「進化」の反対として使うなら「停滞」だと思うのですが。

B)つまり、退化はティラノサウルスの前脚が短くなっていったように進化の一形態であるという意味ですよね。

――そうそう。退化にはポジティブなニュアンスもある。あと近年スポーツ界から生まれた新たな表現としては、「心が折れる」も引っかかります。格闘技で使われ始めたのが最初ではないでしょうか。メンタルが強い選手のことを「この選手は心が折れないですから」と言ったりしますよね。

B)それも比較的、新しい表現ですよね。ただ、意味はわかりやすいので、個人的な意見ですが、違和感は小さいと言っていいかと思います。

「刺さる」は書き換えをお願いすることも。

――同じように「心」に関する表現で、最近は「刺さる」を使いますよね。「あの言葉が刺さった」というような感じで。

A)刺さるは2通りの意味が考えられます。もともとはグサッと刺さる、傷を負うという意味だったのですが、最近は、心に響く、感銘を受けるといった意味でも使う。校閲としては、新しい意味で使う場合、誤解を招きかねないと判断したら、書き換えをお願いすることもあるかと思います。

――比喩として使っていたのに、言葉の間違いだと言われ、最近、昔ほど見なくなった表現のうちの1つに「マウンドで崩れ落ちる」があります。これは「くずおれる」の勘違いではないかという指摘をする人がたくさんいて、「マウンドでくずおれる」という言い方に強引に変えさせられたんですよね。ただ、表現としては、むしろイメージしにくくなった。

A)「マウンドで崩れ落ちる」は、比喩としてはありだと思います。確かに「マウンドでくずおれる」の方がわかりにくい。

【次ページ】 リスペクトは基準ぎりぎり。

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