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ミネイロンの惨劇で触れたユーモア。
「アルゼンチン人は泊めちゃダメよ」
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph byTakashi Kumazaki
posted2020/04/04 09:00
2014年6月25日、日本対コロンビア戦が行なわれたクイアバの町の道路にあるグラフィティ。6回目のW杯優勝を願って、胸元には6つ目の星が描かれたが……。
ブラジル人がオランダに加勢した理由。
ラファは先にスタジアムに向かい、私もあとから家を出ると、街の景色が様変わりしていた。
昨日まで、街中を彩っていたカナリアのシャツが、跡形もなく消えていた。そしてスタジアムに向かうブラジル人の多くが、示し合わせたようにオレンジのシャツを着ている。
これがブラジル人の思考回路か。私は感心した。
世界一愛されるカナリアのシャツは、1-7を境に恥ずべきものになった。そして夢を失ったブラジル人には、死んでも阻止すべきミッションが残された。アルゼンチンの戴冠である。
聖地マラカナンで、アルゼンチンが黄金のトロフィを掲げる――。
ブラジル人として、これ以上の屈辱はない。
敵の敵は味方。かくしてブラジル人はオランダに加勢したのだ。
アルゼンチン人は間違いなく天才。
スタジアムに向かう地下鉄では、泣きたくなるような光景が広がっていた。
アルゼンチン人がオレンジを着たブラジル人を囲み、目の前にパーとチョキをつくる。悪夢のナンバー「7」である。あの陽気なブラジル人が、堪え難きをひたすら耐える。
駅からスタジアムに向かう道では、アルゼンチン人が喜々として数を唱和していた。だれかが「ウノー(1)」と叫ぶと、まわりも呼応して2、3、4……最後の7でドーン! と盛り上がる。
やがて、カウントダウンのリズムが変わった。
1…2345……6…7!(2から5は早口で)
私にはわかった。ブラジルの失点時間を反映したのだ。
ブラジル人が嫌がることを考案させたら、アルゼンチン人は間違いなく天才である。
サンパウロの準決勝は、数字の掛け合いの中で行なわれた。
アルゼンチン人が元気よく「7」と叫ぶと、ブラジル人たちも弱々しく「5」と返す。これはワールドカップ優勝回数。いまやブラジルには、過去しか誇るものがない。
そんな中で試合は動きのないまま進み、PK戦の末にアルゼンチンが決勝進出を決めた。
ラファエルは最後までオランダを応援したが、願いは天に届かず、風邪までひくという散々な一日となった。