どん底でも笑いの精神を忘れない。

　2日後、決勝の地リオに向かう私は、居候宅のみんなに心からのお礼を述べた。

「私は、この大会でブラジルの心を学びました。だれにでも親切にするきみたちを見習って、私もこれから困った旅人を見かけたら泊めてあげます」

「うんうん、おまえはよくわかっている」

　ラファたち3人組と、そのガールフレンドが拍手をしてくれた。

　ここでラファの彼女マリアが、ぽろっといいことを言った。それがいまも忘れられない。

「ただし、アルゼンチン人だけは泊めちゃダメよ」

　こうして笑いの中でのお別れとなった。

　いいなあ、ブラジル人。悲しみの底に突き落とされても、笑いの精神を忘れていない。私はますますブラジルが好きになった。

横たわるリーベル信者を……。

　最後に。私は懺悔しなければいけない。

　翌2015年の冬、ラファたちとの約束を破ってしまったのだ。

　バルセロナがリーベル・プレート（アルゼンチン）を破ったクラブ・ワールドカップ決勝を見届け、横浜から東京に帰ってきた私は、東京駅について呆然とした。階段や通路に、白地に赤だすきのユニフォームを着たリーベル信者が横たわっているのだ。

　南米のファンは、親類縁者や友人からなけなしのお金をかき集めて、愛するチームの晴れ舞台に駆けつける。日本で旗やマフラーを売りながら旅費を稼ぐ、見上げたファンもいる。

　その旅の果てにリーベルは完敗。赤だすきの人たちは精根尽き果て、抜け殻になってしまったのだ。

　これは見事な負けっぷりだ……。

　心を動かされた私は、その中の一体、ブルーノという男を狭い我が家に収容した。

　この話を聞かせたら、きっとラファは「そうかそうか、いいことをしたなあ」と喜んでくれるはずだ。