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野球選手にとって「個性」とは何か。
MLB開幕延期で考えた歴史の有用性。
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph byAFLO
posted2020/03/28 19:00
マーク・フィドリッチはボールに話しかけながら投げる姿が人気になった。日本では桑田真澄が有名だ。
3年めにメジャー初昇格、大活躍。
しかしフィドリッチは、プロ初年=1974年にマイナーリーグのルーキーリーグで23試合34回を投げて40三振を奪うなどすぐさま頭角を現し、2年目はA級からAAA級まで昇格した。三振は多いが、実際は緻密なコントロールで打たせて取る投球だったらしい。
190センチの長身ともじゃもじゃの長髪といった風貌が子供番組『セサミ・ストリート』の人気キャラ、「ビッグ・バード」に似ていることで、マイナーのコーチから「バード」と呼ばれる人気者になったという。
フィドリッチはプロ3年目の4月下旬にメジャー初昇格を果たすと、前半13試合(11先発)に登板して9勝2敗、防御率1.78と圧倒的な数字を残し、新人にしてオールスターゲームの先発投手に抜擢されるなどして人気者になった。
何よりも注目されたのはボールに話しかける仕草だった。その人気はすさまじく、ブルース・スプリングスティーンやマイケル・ジャクソンが起用されるポップ・カルチャー誌『ローリングストーン』の表紙を野球選手で唯一飾るなど、「フィドリッチ」の名は野球ファン以外の人々にも広く認知されたという。
「奇行」か「個性」か。
他の多くの人と同じように振る舞うことが普通だと思い込んでいる人々にとっての「奇行」。だが、その「個性」は、あまりにも鮮烈でエンタメ性抜群だった。
MLBネットワークで『The Bird』が再放送された3月下旬には、彼が「もっとも有名な野球選手」になった1976年6月28日の対ヤンキース戦も併せて放映された。
それは当時、3大ネットワークの1つABCの人気番組だった「Monday Night Baseball」で、7安打1失点に抑えて完投勝利を収めた21歳のルーキーは全米の視聴者が注視する中、この試合でも独り言を呟いたり、試合中にもかかわらず味方選手や審判に感謝して握手を求めたり、素手でマウンドをならしたりと、それから40年近く経ったいま見ても楽しめる(https://www.youtube.com/watch?v=QwGj4VfCreg)。
フィドリッチはデビュー年に19勝9敗、防御率2.34でア・リーグの最優秀防御率のタイトルを獲得し、最優秀新人にも選出された。
しかしその年、31登板29試合に先発して延長戦3試合を含む24完投(4完封)、250.1イニングという酷使もあって、その後の4年間は怪我のため、わずか10勝止まり。最後のメジャー登板は25歳の時で、その後も地元のレッドソックスなどでカムバックを試みるがかなわず、29歳で現役を引退した。