濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
すべてを背負い、勝った“エース”。
K-1武尊が流した涙の重さ……。
posted2020/03/24 20:30
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Takao Masaki
K-1が年間最大のビッグマッチ、さいたまスーパーアリーナ大会『K'FESTA.3』を3月22日に開催した。一部メディアに言わせると、それは「強行」だった。
新型コロナウィルス感染拡大で多くのイベントが中止・延期となる中、K-1さいたま大会にも県から自粛の要請があったという。さらに経済再生担当相からも、県を通じての自粛要請。にもかかわらず、K-1は大会を開催した。
インターネットでは「ウィルスをまき散らす」行為だとして批判や罵詈雑言が飛び交った。運営会社のトップ、その国籍について訳知り顔で語るレイシストもいた。
一方で国や自治体の姿勢を疑問視する声も少なくなかった。世界的な情勢を見ても、大会を開催せずに済むならそのほうがいいのだろう。ただ言われた通りに大会をやめたら多額の損失が出る。それでいて補償はない。そもそも「自粛要請」などというものは言葉として成立していないのだ。
会場入り口付近には「捜査」の腕章をつけた私服警官が何人も立っていた。入場すると水とマスクが配布される。主催者はできる限りの対策を打ち出した。入場者数は6500人と発表された。1万5000人収容の会場を1万人弱の席数で使用し、加えて当日券の販売数を絞ったという説明もあった。
何をどうやっても正解のない大会か。
今大会の感染対策が完璧なものだったと言うつもりはない。客席数を削っても“人がいないスペース”があるだけで観客は密集した状態だった。しかし何をもって完璧とするのか。あるプロレス関係者は「何をやっても文句を言う人はいます。その消毒液は効果が薄いとか、正確な検温ができているのかと。きりがないんですよ」と途方に暮れていた。
場内では頻繁にマスク着用とうがい、手洗いを奨励するアナウンス。声を出しての応援も控えてほしいという。
木村“フィリップ”ミノルが秒殺KOの連続でトーナメントを制し、久保優太が抜群のテクニックでウェルター級王座を防衛するなど見どころがたくさんあった大会だが、どうしたってウィルスのことが頭をよぎる。それを無視して試合のことだけを書くのも、メディアとして不誠実な気がする。
何をどうやっても正解がない大会だから、モヤモヤは晴れない。選手たちが凄い試合をすればするほど、むしろモヤモヤが増すような状況だった。
そんな中で救いになったのが、武尊の存在だ。