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サッカーで世界は変えられる!
元豪代表選手が社会活動で戦う理由。 

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ジェレミー・ドクトゥール

ジェレミー・ドクトゥールJeremy Docteur

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photograph byFairfax Media

posted2020/03/26 11:30

サッカーで世界は変えられる!元豪代表選手が社会活動で戦う理由。<Number Web> photograph by Fairfax Media

オーストラリアでカリスマ的人気を誇るグレイグ・フォスター。その知名度を生かした社会活動はアスリートとしての在り方を示している。

50歳の今も大学で学び続けている知識人。

 2019年2月、彼の活動は成果をあげた。晴れて自由の身となり、アルアライビはオーストラリア再入国が認められたのだった。

 そうした活動家の側面とは別に、フォスターには知識人としての顔もある。

 普通ではないのは、とてつもない時間をかけて勉学を続けたことである。国際スポーツマネジメントの修士号と法学の学位を取得したのはほんの数カ月前のことだった。

「19歳で学び始めて終えたのは50歳だった! でも続けることが重要だったんだ。問題を解決していくためのベースを得ることができたのだから」

 新たな闘いは政府の移民政策と、今も600人以上が拘束されていると言われるナウル共和国の拘禁センターへと向けられている。

「オーストラリアは移民で成り立っている国家だ。私は政府に公開レターを送った。それはハキームに対する彼らの尽力への感謝と、今日もなお酷い扱いを受けている他の難民たち――彼らの状況も何らハキームと変わらない――への対応の改善を呼びかけるものだった。

 そうした活動にサッカーは役に立つ。他のスポーツはそうした人々の歴史を語り得ないし、誰もメディアで取り上げようとしない。サッカーにだけそれができる」

コマーシャリズムに毒されてしまったスポーツ界。

 ただ、オーストラリアが自ら痛みを感じながら問題の解決に取り組もうとしているとき、アスリートたちが沈黙を守り続けているのがフォスターには残念だった。

「スポーツが基本的な人権について妥協してしまったら、世界はより悲惨になる。選手はメッセージを伝えるために発言できるし、自分たちのステータスを利用できる。

 スポーツにはコマーシャリズムが過剰に氾濫していて、人権への配慮を欠く経済的な圧力は深刻だ。そんな中、多くのことが選手たちの言葉を制限する方向で働いている。契約条項がそうだし、沈黙の文化が確立しようとしている。

 大多数のアスリートはシリアスなテーマに対して確固とした意見を持っている。だが、そうした意見は片隅へと追いやられ、語ればほぼ間違いなく批判にさらされる」

 彼にとって、それは疑いのない事実なのであった。

【次ページ】 アスリートが先導する環境保護活動も。

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グレイグ・フォスター
ハキーム・アルアライビ

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