欧州サッカーPRESSBACK NUMBER
なでしこ、イニエスタ、スーケル。
困難の先にスポーツの日常はある。
text by
吉田治良Jiro Yoshida
photograph byGetty Images
posted2020/03/19 11:40
2011年、東日本大震災から数カ月後のW杯制覇。当時の日本を文字通り明るく照らしたのは、なでしこジャパンだった。
内戦とW杯、クロアチアとスーケル。
スポーツには、紛争をも乗り越える力がある。
1998年のフランスW杯で、初出場ながら3位に輝いたクロアチアがそうだろう。独立をめぐる内戦によって、祖国が戦火にみまわれてからわずか数年。選手たちにとってあのW杯は、民族の誇りを取り戻すための戦いだった。
大会得点王に輝いたダボル・スーケルは、こう語っている。
「国家の再生のために──。その一念だけでプレーした。それが今の僕たちにできることだから」
もちろん、スポーツの力が及ばないケースもあるだろう。しかし、これまで人々が膝を折りそうになった時、寄り添い、両脇を抱え、立ち上がる支えとなってきたのは、紛れもない事実だ。
業界への負の影響は計り知れないが。
今、出口の見えないトンネルの暗闇に、誰もが恐れおののいている。今年のビッグイベントであるEURO2020が1年延期となった。仮にサッカーのヨーロッパ各国リーグがシーズン短縮となり、さらには東京五輪までもが延期もしくは中止となれば、スポーツ業界に及ぶ負の影響はそれこそ計り知れないだろう。
けれど、こんな時だからこそ、スポーツの持つ力を信じたいと思う。日本のF1解説のパイオニアだった故人の言葉になぞらえるなら。
「それでもサッカーは、スポーツは続いていくのだから──」
以前、こんな話を聞いたことがある。
イタリアの有名レストランは、バカンス明けの8月の最終週に予約が殺到するそうだ。久しぶりだから、という理由だけではない。休暇を兼ねて世界各地を巡り、様々な食材を口にしてきたシェフの舌が、その時1年でもっともナチュラルで研ぎ澄まされているからだ。