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原口元気が万能型の兄貴分に変貌。
愚痴をこぼさず、泥にまみれて。
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byGetty Images
posted2020/03/14 11:30
泥にまみれながら戦う。かつては奔放なドリブラーだった原口元気は、チームプレーヤーへと変貌した。
コーチについ怒りをぶつけた一戦。
勝てそうで勝てなかった試合――象徴的だったのは、第22節のハンブルガーSVとの一戦かもしれない。昇格争いに絡んでいる相手に対し、この試合のハノーファーは攻守ともに非常にまとまりのあるプレーで好試合を演じていた。
狙い通りに先制点をあげた後も、チーム一丸となって必死に守っていた。だが終了間際、CKから痛恨の同点弾を許してしまう。崩れ落ちる選手たち。それに原口は納得がいかなかった。
なぜ、最後の最後で完全にフリーの相手選手が出てしまったのか。セットプレーの指示で行き違いがあったのか。どこに間違いがあったのか。悔やんでも悔やみきれない。
気持ちを抑えられず、コーチに対してつい怒りをぶつけてしまう。
周りのみんなになだめられて、ようやく少し落ち着きを取り戻した。だが、そうした感情の高ぶりはチームへの思いの強さの裏返しでもある。
仲間のために走ることを止めない。
勝ちたい――その思いは原口の、そしてチームのなかでどんどん膨れ上がっていく。続く首位ビーレフェルトとの試合には0-1で惜敗したが、第24節キールに3-1、第25節ではニュルンベルクに3-0と連勝できた。
ここ数試合でチーム力は確実に向上し、戦い方もようやく安定してきている。そうしたチームの中で、原口の存在感はとても大きい。仲間のために走ることを決して止めない。ニュルンベルク戦、原口の走行距離は両チーム合わせて2位となる12.2kmを記録した。
「サイドなんでそんな走ってないかなとも思ったけど、すごくこまめにポジションを気にしながら、取り直したりとかしてたから、そのくらいいくかなって。変な話、逆サイドにボールがあるときはボランチの位置まで絞ってたし、SBに入ったときはいいタイミングでアプローチしてたんで、そのぶん走行距離が増えたかも」
本人は、いたって涼しい顔でそう振り返る。もちろん、走行距離が長ければいいというわけではない。どのくらい走ったかより、どのように走ったかの方が大事だからだ。
その点で言えばチーム内でのバランスを取るために、試合中ずっとポジショニングを調整しているところが素晴らしい。やみくもにゴールやアシストを狙うわけではない。