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シャラポワ自伝の翻訳者が語る、
苛烈な言葉と繊細な内面の二面性。 

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金井真弓

金井真弓Mayumi Kanai

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posted2020/03/12 20:00

シャラポワ自伝の翻訳者が語る、苛烈な言葉と繊細な内面の二面性。<Number Web> photograph by AFLO

コート上のシャラポワに「妖精」というニックネームは似合わない。彼女は誰よりもファイターだった。

ジュニアの頃から意識し続けた相手。

 シャラポワにとって最大のライバルはセリーナ・ウィリアムズだっただろう。セリーナは自伝にいちばん多く登場する選手で、シャラポワは彼女への闘志を再三見せている。

 まだテニスアカデミーにいた12、3歳のころ、6歳上のセリーナの活躍ぶりを耳にして以来、ライバル意識を高めていたのだ。初めてウィリアムズ姉妹のプレーを見たシャラポワは、彼女たちに「勝ちたい」とだけ願ったという。

 セリーナがウィンブルドンで優勝したとき、ジュニアの部で決勝戦まで進んだシャラポワも祝賀会に招待された。スタンディング・オベーションの中、優勝者として華麗に入場してきたセリーナを見つめながら「いつかあなたに勝ってやるわ」と思ったことが強い口調で語られている。

 その後のセリーナとの初対決、ウィンブルドンでシャラポワが初優勝したときの戦いなど、自伝ではセリーナについてかなりのページが割かれている。セリーナへの闘争心をシャラポワは率直に語る。

 良い選手を作るには良いライバルが必要と言われるが、シャラポワにとってはセリーナがそんな存在だった。ウィンブルドンでシャラポワに負けたあとにロッカールームで号泣していたセリーナのエピソードや、のちにセリーナがトーナメントの控室で自身の婚約を突然打ち明けてきた話(しかもシャラポワの試合が始まる直前に!)が詳しく語られているのも、セリーナが大きな存在、常に意識していた選手であったことをうかがわせる。

パワフルな言葉と、ナイーブな一面。

 自伝の原文は簡潔で勢いがよく、読み手をグイグイと惹きつける。ストレートな表現、パワフルな言葉も多い。それはシャラポワという選手に対する一般的なイメージを損なわないものだ。しかし、ナイーブさや繊細さが表れている言葉や描写もあり、コートでのシャラポワとは別の面が見える。

 そのひとつが、テニス人生をメリーゴーラウンドになぞらえたところだ。ツアーばかりのテニスプレーヤーの暮らしは華やかに見えても、単調な日々の繰り返しなのだと。

【次ページ】 世界を回っても、やることは同じ。

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マリア・シャラポワ

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