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コロナで延期&中止、賞金はゼロ。
世界を旅するテニス選手に大打撃。
posted2020/03/13 20:00
text by
内田暁Akatsuki Uchida
photograph by
Getty Images
米国カリフォルニア州の温暖なリゾート地で、日比野菜緒は、なかなか発表されないドローと試合予定に訝しさを覚えていた。
明日には、グランドスラムに次ぐ格付けの大会「BNPパリバオープン(インディアンウェルズ大会)」の予選が控えている。にもかかわらず夕方6時を過ぎてもまだ、明日の何時に誰と対戦するのかすら分からなかった。
「大会、延期になるかもよ」
日比野が落ち着かぬ時間を過ごす中、そんな一言を発したのは、やはり同大会の予選から参戦予定のダニエル太郎である。
日比野が会場の近くに借りている一軒家に、この日は決起会とばかりに、多くの日本人選手が集まっていた。もちろんこの時はまだ、延期の噂を重く捉えていた者は少数派だったろう。何しろ開幕は目前に迫っている。
また大会はこの数日間、ボールパーソンの手袋着用や、選手とファンとの接触を最小限に留めることなど、多くの新型コロナウイルス対策を講じてきたのだ。ここにきてのスケジュール変更は、考えにくいと思われた。
予選開幕前日、耳にした中止の噂。
大会の延期を告げるメールが選手たちの下に一斉に届いたのは、その僅か数分後のことである。にぎやかな談笑の席に衝撃が走り、誰もが慌ただしく関係者等に連絡を取り始める。その混乱と喧騒の中、日比野は驚きつつも、一旦の結論が出たことに多少の安堵も覚えていたという。
大会が中止になるかも――ダニエルがその噂を耳にしたのは、女子の予選開幕前日のことだった。