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ラグビーの試合なく暇なので調べた。
「魔法のやかん」はいつ消えた?
text by
長田昭二Shoji Osada
photograph byKYODO
posted2020/03/04 20:00
昨年のW杯期間中、グラウンドではやかんは見かけなかったが、新宿のバーで「魔法のヤカンビール」が販売されていた。飲んでいるのはアイルランドサポーター。
脳震盪に対する医学的な介入が進んだ。
鈴木医師によると他にも、試合中に交代できる選手の人数が「3人」から「8人」に増えたことで、倒れた選手を無理に試合に戻す必要性が減ったこともあるという。
ただ、一番大きな理由は、脳震盪に対する医学的な介入が進んだことだと指摘する。
「2000年代に入って、HIA(Head Injury Assessment)が導入されました。
これは試合中に脳震盪の疑いが出た選手には、マッチドクターやチームドクターが脳震盪か否かの医学的判断を下すため、一時退場(10分間)して別室で医学的な簡易検査を行わなければならない、という取り決めです。
これにより、顔に水をかけて無理やり意識を取り戻させるようなことはしなくなったのです」
脳震盪を起こした選手が試合継続することに対する医学的な危険性が認識され、試合現場にマッチドクターやチームドクター、アスレチックトレーナーなどの帯同が義務付けられた現在、魔法でも何でもないやかんの出番はなくなったということだ。
鈴木医師は「2000年代前半には行われなくなっていたはず」と指摘する。
めまいや頭痛、時に吐き気を催す。
ところで、そもそも「脳震盪」とは、どんな状態なのだろう。
アジアリーグアイスホッケー・東北フリーブレイズのチームドクターで脳神経外科の朝本俊司医師が解説する。
「頭蓋骨の内部は脳脊髄液という液体で満たされていて、脳はその液体に浮いている状態で存在する。そこに強い外傷が加わって起きる振動によって“脳が揺れている状態”が脳震盪です。
CTやMRIなどの画像診断では異常はないものの、めまいや頭痛、時に吐き気を催すことや、一時的に意識が朦朧とするなどの症状が見られる外傷性の病態です」