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レスリング文田、五輪第1シード確定。
「投げてナンボ」で金を目指す。 

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矢内由美子

矢内由美子Yumiko Yanai

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photograph byKYODO

posted2020/02/28 11:30

レスリング文田、五輪第1シード確定。「投げてナンボ」で金を目指す。<Number Web> photograph by KYODO

昨年のアジア選手権では敗者復活戦を勝ち上がっての銅メダルだった文田。見事雪辱を果たし、3年ぶりの優勝を果たした。

スタンドで組ませてくれなくなっている。

 ただ、'17年、'19年と世界選手権を制している文田だけに、ライバルたちが簡単に組ませてくれないという悩みは一層強まっている。最大の武器であるスタンドで組ませてくれなくなっているのだ。

「今回はスタンドはまったく組ませてくれませんでしたね。徹底的に嫌がられて、パッシブを与えてでも組まないぞという意思が感じられました」

 パッシブを得ることができれば試合を優位に進めるのは文田ということになる。

 シンプルに考えれば、スタンドを警戒させることで別の角度から優位な状況を引き出すことはできる。しかし、文田はこれで良しとはしていない。

「自分に有利な試合づくりということではそれで良かったのですが、今後はさらに相手が技や試合展開の対策をしてくると思います。

 それに、僕はやっぱりスタンドでポイントを取っていきたい。投げて勝ちたいという思いがある。だから、戦い方をもうひとつ、身につける必要があると思っています」

 文田にとっては結果だけがすべてではないということだろう。

「投げてナンボ」という理想。

 下半身への攻撃が許されないルールで戦うグレコローマンの選手らしく、「投げてナンボ」という自らの理想を貫いて金メダルを手にしたいと思っているのだ。

 その思いを強く持つのは、文田自身が五輪の舞台で目にしてきた日本人レスラーが光り輝いていたからだ。

 '12年ロンドン五輪。父・敏郎さんとともに現地観戦した目の前で、父の教え子である男子フリースタイル66キロ級の米満達弘が金メダルに輝いた。その姿はまばゆかった。

 その2年後の'14年、高校8冠の実績をひっさげて日体大に入ると、今度は2年先輩に同じ階級の強豪・太田忍がいた。'16年リオデジャネイロ五輪は練習パートナーとして日本チームに同行。すると今度は、太田の銀メダルを生観戦することになった。

 2大会連続で見た、身近なレスラーの勇姿。五輪でメダルを勝ち取るレスラーには特別な特別な輝きがあることが強烈なインパクトで伝わった。

 4年後は自分の番だと決意するのと同時に、日本中の誰もが、これこそがグレコローマンスタイルだと一目瞭然で分かる勝ち方をしたい。文田は今、その思いを貫こうとしている。

【次ページ】 背骨の柔らかさを生かした豪快な「反り投げ」。

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文田健一郎
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