ボクシングPRESSBACK NUMBER
ワイルダー撃破の“踊れる”英国人。
ヘビー級頂上決戦、完璧な勝ちっぷり。
text by
杉浦大介Daisuke Sugiura
photograph byGetty Images
posted2020/02/25 20:00
互角とも言われた予想を覆し、完璧な試合運びでワイルダー(左)を撃破したフューリー。ドローで終わった前回対戦の因縁にも決着をつけた。
これから反撃するつもりだったのに。
前日計量でのフューリーの体重は273パウンド(約123.8kg)で、第1戦から約20パウンドも増やしたことが懸念された。ただ、この増量も完全に計算内だったのだろう。サイズで明らかに上回る英国人は、231パウンド(約104.7kg)のワイルダーに圧力をかけ、クリンチ際にも揉み合いで相手を消耗させた。
これまでのワイルダーは“史上最強レベル”と称された右パンチで何度も劣勢を逆転してきたが、それを打つスペースすら与えなかったインファイトは見事としか言いようがない。
「これから反撃するつもりだったのに……」
7回にフューリーの連打でストップされたあと、ワイルダーはそう息巻き、チーフトレーナーも陣営の1人がタオルを投入した判断に異論を唱えていた。ただ、そんな言葉に頷くものがどれだけいただろう? パワーで上回ると目された黒人王者だったが、今回、リング上でよりパワフルに見えたのはフューリーの方だった。3回以降はほとんど意識朦朧に見えただけに、実際はもっと早くストップされても文句は言えなかったはずだ。
メイウェザーvs.パッキャオ戦を彷彿。
「2002年のレノックス・ルイス(イギリス)対マイク・タイソン(アメリカ)戦以来、最大の世界ヘビー級タイトルマッチ」
そう称された一戦に際し、アメリカ国内の盛り上がりはかなり凄いものがあった。この試合をジョイントPPV(ペイパービュー)で中継したESPN、FOXの両局が、NFLのスーパーボウルの頃から大々的なプロモーションを展開。因縁のリマッチの話題性にヘビー級の威光、米英対決の趣も加わり、今回の試合はボクシングの範疇を超えるほどの注目を集めるに至った。
試合当日、ベガスの雰囲気は素晴らしく、取材パスをぶら下げてアリーナ内を歩いていると襲われるのではないかと危険すら感じた2015年5月のフロイド・メイウェザー(アメリカ)対マニー・パッキャオ(フィリピン)戦を彷彿とさせたほど。
「世紀の一戦」と言われた5年前と厳密に比べれば、その熱気はわずかに劣っていたかもしれないが、ビッグイベント感はたっぷりで、ファン、メディア、関係者をわくわくさせるに十分だった。