ボクシングPRESSBACK NUMBER
田口良一が歩んだボクサー人生と縁。
王者への道と井上尚弥、田中恒成。
posted2020/03/01 18:00
text by
谷川良介Ryosuke Tanikawa
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
「田口くん、ボクシングやっているらしいよ」
知人に言われてボクサー・田口良一の存在を知った。
実は、田口くんのことは小学校のころから知っている。1つ上の先輩で、中学校では、ラグビー強豪校に進学した小林くんや長身でスポーツ万能な陳くんに混ざって体育館を走り回っていたから、印象はいまでも「バスケ部の田口くん」のままだ。
元WBA・IBF世界ライトフライ級統一王者。プロ通算33戦27勝(12KO)4敗2分。昨年11月、33歳の誕生日を前に現役を退いた。
輝かしい戦績とは裏腹に、派手さはなかったボクサーだった。でも玄人に称賛されるタフで堅実なファイトスタイルは、後輩から見れば、なおさらかっこよく映った。
田口くんと『はじめの一歩』。
“小さな田口くん”にボクシングを教えたのは漫画『はじめの一歩』だった。
地域振興券で買った『はじめの一歩』のゲームでボクシングを知り、あとになって読んだ漫画で夢中になった。なんとなく当時の自分を一歩の姿に重ねていた。
田口の境遇が語られるとき、しばしば“いじめられっ子”という表現が使われる。
「いじめられっ子は小学校の話で、半年間ぐらいのこと。仲間外れにされたり、無視されたり。でも、そういう記憶って簡単には消えないもんなんです。やり返すつもりもなかったし、それをする気持ちすらなかった。強くなりたいという気持ちはあの時に潜在的に身についたものだと思う」
中学3年秋、友人と一緒にボクシング教室に参加した。学校で配られたプリントには大田体育館と書いてある。引っ込み思案だった少年は、2週間に一度、自転車を走らせた。
高校1年夏、横浜光ジムに入門。畑山隆則、新井田豊という憧れのボクサーが籍を置く名門ジムだ。でも、すぐ行かなくなった。
「年頃なんで遊んでしまった。だんだん気まずくなって、行ったら行ったで『なんで来ないの?』とか言われて。それにサンドバッグを打っていても、特に何かを言われることもなかったし、自分には才能がないんだなって思っていました」