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ワイルダー撃破の“踊れる”英国人。
ヘビー級頂上決戦、完璧な勝ちっぷり。
text by
杉浦大介Daisuke Sugiura
photograph byGetty Images
posted2020/02/25 20:00
互角とも言われた予想を覆し、完璧な試合運びでワイルダー(左)を撃破したフューリー。ドローで終わった前回対戦の因縁にも決着をつけた。
収入は過去最大の約1690万ドル。
試合開始直前には、レノックス・ルイス、イベンダー・ホリフィールド、マイク・タイソンといった往年の名王者たちがリングに登場してメダルを授与された。その後、場内では最近のビッグファイトの定番ソングになりつつある『スウィート・キャロライン』の大合唱。こうしてメガファイトの雰囲気ができあがっていった頃には、15816人(ソールドアウト)の大観衆は「Happy to be here(この場にいれらてよかった)」との思いを強くしたことだろう。
狂乱の結果として、この試合のゲート(入場料)収入はネバダ州開催のヘビー級タイトル戦史上最大の約1690万ドル(約18億7300万円)を記録。文字通り、歴史的となった大興行で、主役のワイルダー、フューリーは少なくとも2800万ドルずつ(約31億3000万円)、それにPPV売り上げの歩合を加えたファイトマネーを受け取るという。
そして、これほどの巨大ステージの中で、フューリーのカリスマ性は何よりも際立っていた。
「イギリス人ボクサーの史上最高のパフォーマンスだった」
英国人プロモーター、フランク・ウォーレンの試合後のそんな称賛も大袈裟には聞こえず、今後、世界ヘビー級はこのショウマンを中心に動くことになるのだろう。
ボクシングIQも高く、茶目っ気も魅力。
サイズ、フットワークを兼備し、アウトボクシングのスキルは一級品。それでいて巧みなステップワークで“ダンス”するだけでなく、必要に応じてインファイトもこなせることを今回は証明して見せた。ワイルダーとの1~2戦の間にアジャストメントを施したクレバーさも素晴らしく、ボクシングIQの高さはこれまでのヘビー級王者でも類を見ないレベルにある。
過去に薬物、アルコール依存という形で精神的な不安定さを露呈したことがある上に、試合ごとのムラっ気が玉にキズではある。昨年9月のオットー・ワリン(スウェーデン)戦では左目のカットでTKO負け寸前の大苦戦も味わっており、難攻不落の王者と認定するのは尚早だ。
ただ、その能力の高さは誰の目にも明らかで、心身のコンディションを整えてきたときのフューリーに勝つのはどんな強豪にとっても並大抵の難しさではあるまい。
リング上で前述の『アメリカン・パイ』やエアロスミスの『ミス・ア・シング』を熱唱するような茶目っ気まで含め、ヘビー級の覇者らしく、誰もが無視しきれない魅力を備えた選手である。