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湘南ベルマーレ、21年目の開幕戦。
この誇るべき観客席を生んだもの。
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byYUTAKA/AFLO SPORT
posted2020/02/25 20:30
湘南ベルマーレが歩んだ長い苦難の道は、このクラブを確かに強くした。ピッチの中でも外でもそれは変わらない。
小さな声援と労いの拍手。
ピッチの中央に並んだ両チームの選手たちは、一列に並んでスタンドに頭を下げる。湘南の選手たちはゴール裏に近いメインスタンド脇から、順を追って挨拶をしていく。
マイケル・ジャクソンの『ヒール・ザ・ワールド』のカバー曲をBGMに、メインスタンドからバックスタンドへ行き、サポーターの陣取るゴール裏へと向かう。選手たちが足を止めるたびに、小さな声援と労いの拍手が起こる。
この試合で先制のヘディングシュートを決めた石原直樹と2点目をあげた山田直輝、それにキャプテンの岡本拓也と出場のなかった梅崎司が、古巣のサポーターのもとにも足を運んだ。赤いサポーターとの交流が、心地良い余韻を運んでくる。
サッカーを日常とする人たちと一緒に。
私たちの日常は不確実性に満ちていて、視線はどこか俯きがちになる。自らを奮い立たせて頭を上げても、戸惑いのなかにいる自分を自覚したりする。思いどおりにいくことよりも、思いどおりにいかないことのほうが多い。
サッカーも同じである。そもそも相手のミスによって動いていくことの多いスポーツであり、内容と結果が重なり合わないことも珍しくない。
それでも、スタジアムでは視線を起こし、声を上げ、等身大の自分になることができる。開幕直後のゲームでは寒さに震えたりもするが、スタジアムからの帰り道には「やっぱり来て良かった」と思える。
'93年のJリーグ開幕から28度目の開幕を迎えた2020年は、何かを振り返るのにちょうどいい区切りのシーズンではない。
しかしそんなタイミングだからこそ、感じ取りやすい変化がある。数字を意識した意気込みではなく、自然体の取り組みや心模様が目を射る。ありのままの姿が浮かんでくる。
小さな温もりを集めてきたJリーグは、サッカーが大切な日常となっている人たちを確実に増やしている。