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湘南ベルマーレ、21年目の開幕戦。
この誇るべき観客席を生んだもの。
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byYUTAKA/AFLO SPORT
posted2020/02/25 20:30
湘南ベルマーレが歩んだ長い苦難の道は、このクラブを確かに強くした。ピッチの中でも外でもそれは変わらない。
地域貢献の歩みが開幕戦にも表れている。
Shonan BMWスタジアム平塚を舞台とした浦和戦では、9市11町の市長らが試合前のセレモニーに勢ぞろいした。「湘南」の名にふさわしいホームタウンの広域化と並行して、地域密着と地域貢献に取り組んできた歩みが、ホーム開幕戦の恒例行事に表われている。
スタジアムの空気にも、積み重ねた年月が表われている。
1-0で迎えた26分、ハーフライン付近でパスを受けた右ウイングバックの石原広教が前を向く。タッチライン際の狭いスペースをタテへ抜け出す。ライナー性のクロスは相手DFにクリアされるが、湘南はCKを獲得する。
スタジアムに拍手が広がる。ユース出身の20歳の躍動感が、ゴール裏はもちろんメインスタンドにも熱を運ぶ。
直後の27分、DFラインの間に入り込んだノルウェー代表FWタリクが、右ポストをかすめるようなヘディングシュートを浴びせる。
スタンドで「アアッ!」というため息が重なる。天を仰いだ観衆は、すぐに視線をピッチへ戻して拍手をおくる。
好プレーを拍手で称えることは、サッカーが根付いているひとつの目安ととらえられる。サッカーを知っている国の観衆は、ゴールシーンや好セーブ以外にも生き生きと反応する。
湘南の観客の目が肥えた理由。
湘南の試合を見つめる観衆は、サッカー先進国にならっているわけではないだろう。'12年から'19年途中まで采配を振った曹貴栽前監督が作り上げ、そのフレーム作りにコーチとして関わった浮嶋敏監督が継承する湘南スタイル──攻撃的で走る意欲に満ち溢れた、アグレッシブで痛快なサッカーに、身体が自然と反応していると感じる。
ひとり目が外されたらすぐにふたり目が襲い掛かるディフェンスにも、観衆は興奮をかきたてられている。チームのスタイルと観衆の思いがシンクロし、拍手に溢れる空間が作り出されていったのだ。
1-0から1-2となり、2-2に追いついたゲームは、70分過ぎにVARが発動する。浦和のDFにハンドがあったことが映像で確認され、湘南にPKが与えられる。
ところが、タリクのシュートはクロスバーを叩く。85分に失点を喫した湘南は、開幕戦を2-3で落とした。