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日本ラグビーが取り組んだ育成と強化。
13年前に蒔いた「W杯8強」への種。 

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多羅正崇

多羅正崇Masataka Tara

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photograph byNaoya Sanuki

posted2020/02/17 11:50

日本ラグビーが取り組んだ育成と強化。13年前に蒔いた「W杯8強」への種。<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

W杯8強の序章は13年前だった。世界を驚かせた日本ラグビーの背景には、一貫した育成と強化に取り組んだ男たちの存在があった。

リストには金の卵の名前が並ぶ。

 具体的にATQが示した一貫指導体制を見てみると、ユース世代に対しては、3層構造の育成プログラムを用意。17歳以下の原石を発掘する「プレ・アカデミー」、その上にある18歳から23歳までの約30名を年4回の合宿で強化する「アカデミー」。

 そして、19歳から25歳までの有望株数名による最上層の「ハイ・パフォーマンス・ユニット」は、ニュージーランド、オーストラリアの現地プログラムで強化。協会予算での海外派遣は史上初、という目玉企画だった。

 この育成プログラムの上に、5つの年代別代表(U17、高校、U19、U21、U23)と7人制日本代表、そして頂点に日本代表を据えて、一貫指導体制のヒエラルキーとした。

 そんな育成プログラムの第1世代とも呼べる「2007年度のATQスコッド」を見てみると、のちに世界を驚かせることになる男たちの名が並ぶ。

 '15年W杯日本代表では、PR畠山健介(早大3年)、PR山下裕史(京産大3年)、PR湯原祐希(東芝)、LO眞壁伸弥(中大2年)、WTB山田章仁(慶大3年)、FB五郎丸歩(早大3年)。

 そして'19年W杯日本代表ではSO/FB山中亮平(東海大仰星高3年)。リーチ マイケル(東海大2年)は'08年のATQキャンプに参加している。プロジェクトにとって、彼らは8強進出を成し遂げる金の卵だった。

ATQはエリート育成だけではない。

 ただ世界ベスト8を継続して達成するためには、エリート育成だけでは足りない。ATQでは、同時にレフリーやコーチ、大会運営力も向上させていくと宣言した。W杯8強を達成するためには、すべてが世界8強のレベルでなければならない――。現代にも通じる先進的なメッセージだった。

 ATQプロジェクトは、ラグビーの国際統括団体「IRB」(現ワールドラグビー)の支援を背景として立ち上がった。

 IRBは'04年、ラグビーを世界のメジャースポーツにするための中期的な戦略(IRB Strategic Plan)を策定。その後日本やアメリカなどの「ティア2」(実力2番手の国際グループ)へ支援を始めたのだ。当時の日本はW杯招致へ動き出しており、優れた強化戦略はIRBへのアピールにもなると考えた。政治的にも支援は渡りに船だった。

 ATQのコーディネーターだった日本協会の中里氏は、プロジェクトの構想には立ち会ってはいないと前置きしつつ「(IRBが)ティア2の強化のため財政的、リソース的な支援を開始したことがキードライバーになっていたはずです」と経緯を振り返る。

「そして当時協会の強化の中心にいた勝田隆競技力向上委員長(当時)、上野副委員長らが中心となり、協会内のコンセンサスを得ながら進めていったと記憶しています」

 日本ラグビーは長きに渡り、プロ化により拡大した強豪国との差に苦しんでいた。その代表例が'95年W杯ニュージーランド戦での歴史的大敗だ(17-145)。長期化する低迷を脱却するため、抜本的な強化策が必要だった。

【次ページ】 改革に乗り出した故・宿沢広朗。

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畠山健介
山下裕史
湯原祐希
眞壁伸弥
山田章仁
五郎丸歩
山中亮平
リーチ マイケル
稲垣啓太
松島幸太朗
姫野和樹
松田力也
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