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日本ラグビーが取り組んだ育成と強化。
13年前に蒔いた「W杯8強」への種。
posted2020/02/17 11:50
text by
多羅正崇Masataka Tara
photograph by
Naoya Sanuki
2007年の日本ラグビー界は夜明け前だった。W杯日本大会の招致は決まっておらず、日本代表のW杯通算勝利はわずか1勝(15敗)。ベスト8は夢のまた夢――。そんな13年前の日本で、W杯8強というビジョンを掲げ、構造改革に取り組んだ男たちがいる。
日本ラグビーフットボール協会は'07年2月、ユース強化を軸とした日本ラグビーの強化策「ATQプロジェクト」を発表した。
ATQとは「Advance To the Quarterfinal」の略で、まさに「準々決勝(8強)へ進出する」という意味だ。
母国開催のW杯で日本代表が8強入りを果たすことなど知るよしもない時代に、「W杯8強」をビジョンに掲げた。しかも4年後の'11年大会で達成し、その後も8強に留まることを目標とした。
結果として、'11年W杯は1分3敗に終わり、プロジェクトは表舞台で語られなくなった。ただATQ(W杯8強)というビジョンは、その先の未来で実る種を蒔いていた。それも、一粒や二粒ではなかった。
一貫指導による選手発掘と育成。
プロジェクトの責任者は、上野裕一氏(現アジアラグビー協会副会長)。当時は日本協会の競技力向上委員会の副委員長で、'16年にはスーパーラグビー初の日本チーム「サンウルブズ」の立ち上げにも携わった。
選手発掘統括マネージャーには、法大監督だった山本寛氏。コーチングディレクターは、東芝の監督を勇退した直後だった薫田真広氏。ハイ・パフォーマンス・マネージャーには、IRBより派遣されたニュージーランド人のトニー・フィルプ氏。予算管理等を担当するコーディネーターには、慶大出身の中里裕一氏(現日本ラグビー協会大会運営部部長)が入った。
プロジェクトの骨子は、「ハイ・パフォーマンス」の概念のもと、W杯8強を達成するエリートプレイヤーを発掘・育成することだった。
ここでいうハイ・パフォーマンスとは、「代表を頂点とした一貫指導と選手育成プログラム」のこと。ニュージーランド代表など強豪国を支える国内一貫指導体制で、日本での導入は「ATQが最初だったと思われます」(中里氏)。