Jをめぐる冒険BACK NUMBER
タイ1部監督・石井正忠に聞く、後編。
給食センター勤務と鹿島で得た宝。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byNorio Rokukawa
posted2020/01/27 11:35
トレーニング中に笑顔を見せる石井正忠監督。鹿島で培ってきた哲学を、タイの地に落とし込もうとしている。
鹿島を嫌いになったわけじゃない。
――個人的に凄いと感じたのが、鹿島の監督を離れられてしばらくして、シーズンチケットで鹿島の試合を見に行かれていたことで。なかなかできることではないなと。
「ああ、はい。でも、監督を解任されただけで、私が鹿島を嫌いになったわけじゃないので。好きなチームのサッカーを見に行くことに問題はないじゃん、っていう感じですよ。逆に言うと、鈍感なんじゃないですか(笑)。プライドもないですし。スタジアムグルメも魅力ですしね(笑)」
――これまでパウロ・アウトゥオリやオズワルド・オリヴェイラ、トニーニョ・セレーゾといった監督のもとでコーチを務め、いろいろ学ばれたと思います。さらに石井さん自身も鹿島、大宮を率いて経験を積まれましたが、改めて今、ご自身の監督としての強みや武器は、なんだと思っていますか?
「どうですかね……鹿島の頃、私の気持ちが落ちてしまって1試合、指揮が執れなかったことがあるじゃないですか。あのとき、自分自身が挫けて落ち込んだわけじゃなくて、クラブ自体のことを少し信用できなくなってしまって落ち込んだんですけど、逆に、いくら負けようが、いかに改善して、今何をやらなきゃいけないのか、といった気持ちは他の人よりも強いかもしれない。それは私の強みかもしれないですね。へこたれそうで、意外と、へこたれない(笑)」
見た目は弱そうだけど、意外と。
――意外と(笑)。
「見た目は弱そうだけど、意外とそうでもない(笑)。意外と頑固なところはあると思うので。それと、私は自分がグイグイ引っ張るというより、先頭に立ってはいるけれど、ちゃんと後ろを見ながら、みんなで頑張ろうよ、というタイプなので、私が去ったあとも、チームに良い雰囲気は残していけるんじゃないかな、とも思います」
――たしかに2016年シーズンも復帰されてから、チャンピオンシップを勝ち抜き、クラブ・ワールドカップで決勝に進み、天皇杯を制しました。優しそうに見えて、なにクソというようなリバウンドメンタリティがあると。
「表面には出さないだけで、感情がないわけではないですから。ちゃんと怒りの感情も持っていますから(笑)」
――そうですよね。現役時代には常勝・鹿島の礎を築かれたおひとりですもんね。そりゃ、ありますよね(笑)。
「あるんですけど、あまり表に出さないので、他の人には分からないでしょうね(笑)」