酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
MLB殿堂で起きる謎現象とモラル。
薬物疑惑のボンズ、Aロッドは……。
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byUSA TODAY Sports/AFLO
posted2020/01/26 11:50
殿堂入りを果たしたジーター(右)とウォーカー。ヤンキースのキャプテンとして抜群の知名度だったジーターに比べるとウォーカーは……。
どうも不思議なウォーカーの選出。
ただ毎年のように不思議に思うことがある。
今年はジーターとともにラリー・ウォーカーというカナダ出身の強打者が選出された。彼のトータルのWARは、72.7。つまりジーターをわずかに上回っているが、候補にノミネートされて10年目の今年、ようやく選ばれた。
実は現時点でメジャーの殿堂入り候補は、ノミネートされて10年で資格を失う。まさにギリギリでの選出だったのだ。得票も合格ラインの75%(300票)より4票だけ多い304票だった。ウォーカーはキャリアの大半を超ヒッターズパーク(打者有利な球場)を本拠地とするコロラド・ロッキーズで過ごした。それだけに打撃成績は割り引く必要があるとの判断も働いたのだろう。
2005年に引退したウォーカーは、引退後5年を経過した2011年に初めてノミネートされたが、この時の得票率は20.3%に過ぎなかった。翌年は22.9%、3年目は21.6%、さらに4年目の2014年には10.2%にまで落ち込んだ。
得票率が5%を切れば即、足切りになるので、ウォーカーは瀬戸際まで追い込まれた。しかしここから11.8%、15.5%、21.9%とじわじわ数字を上げて、2018年に34.1%、2019年に54.6%と急上昇し、今年76.6%で見事殿堂に滑り込んだ。
当たり前の話だが、ウォーカーは2005年に引退してから一度も試合に出場していない。現役時代の数字は全く動いていないが、得票数がここまで動いたのだ。
投票記者に「価値判断の揺れ」が?
MLBではよくあることだし、NPBでも見られるケースだが、引退した殿堂入り候補の得票数が毎年動くのはなぜなのか?
これは候補選手の問題ではなく、選挙権を持つ記者たちの「価値判断の揺れ」の問題だろう。
エントリーされた当初は「この選手は無理だなあ」と思っていた記者たちが「待てよ、いいところもあるじゃないか」と思い直し始める。ひょっとすると「こないだ、グラウンドであったときに笑顔で挨拶してくれたなあ」みたいなこともあるかもしれない。
殿堂入りに関しては候補たちのロビー活動もあるといわれるが、それが功を奏する可能性もあるだろう。