酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
MLB殿堂で起きる謎現象とモラル。
薬物疑惑のボンズ、Aロッドは……。
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byUSA TODAY Sports/AFLO
posted2020/01/26 11:50
殿堂入りを果たしたジーター(右)とウォーカー。ヤンキースのキャプテンとして抜群の知名度だったジーターに比べるとウォーカーは……。
大物候補が複数出てくると……。
さらに、毎年新規にエントリーされる候補の顔ぶれによっても得票が変わってくる。記者は1人10票を持っているが、大物候補が複数エントリーされると、そちらに票が集まってこれまでの候補が割を食うこともあるのだ。
2014年はグレッグ・マダックス、トム・グラビン、フランク・トーマスと大物3人が新たにノミネートされ、3人とも1年目で殿堂入りしたためにウォーカーの得票率は21.6%から10.2%に半減したのだ。
記憶に新しいのは、エドガー・マルチネスだ。イチローがマリナーズに入団したころの中心打者で、極めて勝負強かった。ちょっと左とん平に似た、アメリカの気のいいおじさんという風貌で、チームの柱でもあったが、2010年にノミネートされてから得票が上がらなかった。
彼はほとんど守備に就かず、DH専門だった。WARの指標では守備も重要視される。その評価が欠落しているために、なかなか票が集まらなかった。
エドガー・マルチネスは「史上最高のDH」と言われ、その年の最高のDHには「エドガー・マルチネス賞」が与えられる。そんな素晴らしい打者なのに殿堂入りは無理か、と思ったが、10年目の2019年に85.4%で晴れて殿堂入りした。
薬物疑惑のクレメンス、ボンズは?
多くの人が気にしているのは、ロジャー・クレメンス、バリー・ボンズという2人の偉大な選手だ。
クレメンスのWARは139.2、ボンズは162.8。ジーターのおよそ倍だ。MLBの歴史的にみてもボンズは1位のベーブ・ルース(182.4)から数えて4位、クレメンスは8位だ。
こんなものすごい選手が8年間も殿堂入りにお預けを食らわされているのは、言わずと知れた「薬物疑惑」があるからだ。2人はステロイドなど薬物の力を借りて偉大な成績を挙げたとみなされている。
そのために、本来なら1年目で一発当選のはずが、8年目の今も得票が伸び悩んでいるのだ。
ただ近年、2人の得票はじわじわ上がっている。1年目の2013年、クレメンスは37.6%、ボンズは36.2%だったが、7年目の2019年はクレメンスは59.5%、ボンズが59.1%。そして今年はクレメンス61.0%、ボンズ60.7%。2人の得票率がずっと近いのは、同じ記者が2人に入れているからだろう。
「のど元過ぎれば熱さ忘れる」ではないが、薬物疑惑のショックが薄らいだこともあろう。彼らは禁止されていない時代に薬物を使用したのであり、ルール違反はしていないという解釈も出てきている。
野球賭博問題で殿堂入りの機会を奪われたピート・ローズのように、本来殿堂入りすべき選手をこれ以上棚ざらしするのはよくない、という意識もあるかもしれない。