酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
MLB殿堂で起きる謎現象とモラル。
薬物疑惑のボンズ、Aロッドは……。
posted2020/01/26 11:50
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph by
USA TODAY Sports/AFLO
2020年のMLB野球殿堂投票が終わった。今年の最大の注目は「候補1年目のデレク・ジーターが満票で選出されるか?」だった。
しかし有効投票総数397のうちジーターが獲得したのは396。選考した全米野球記者協会(BBWAA)にはへそ曲がりの記者が1人いたのだ。誰がジーターに入れなかったのか、知りたい気もする。
今のMLBの選手評価では、WAR(Wins Above Replacement)というセイバー系指標が幅を利かせている。この指標は投打の成績に加え、守備成績なども含めた総合指標であり、端的に言えば「同じポジションにいる代替可能な選手に比べて、どれだけ勝利に貢献したか」を表している。
一般的に野手の場合、WARは長打が多く、出塁率が高い選手の数値が高くなる。
デレク・ジーターの通算WARは、野球記録の専門サイト「Baseball Reference」によれば72.4。殿堂入りにふさわしい数字ではあるが、同時期に活躍したチッパー・ジョーンズ(2018年殿堂入り)の85.2や、ケン・グリフィーJr.(2016年殿堂入り)の83.8に比べればやや見劣りする。
ジーター、イチローへの歴史的評価。
ジーターはホームランがキャリアハイで24本と少なく、WAR的には素晴らしく価値が高い選手とまでは言えない。
しかし数字的な評価に加え、20年にわたって名門ヤンキースの遊撃手として活躍したキャリアや、キャプテンシー、スター性なども加味してこのような高い評価になったと思われる。
ちなみにイチローのトータルのWARは59.4だ。WARだけで評価すればイチローの殿堂入りは微妙かもしれないが、ジーター同様、数字に出ない貢献度や、安打を放つことに特化した才能、走攻守で人々を楽しませたスター性なども加味して資格1年目での殿堂入りが確実視されている。
昨今の価値基準と、MLBの歴史的な価値観をきちんと分けて評価しているのは、BBWAAの見識と言えるだろう。