松岡修造のパラリンピック一直線!BACK NUMBER
パラテコンドー日本代表、伊藤力が
修造に語った“先生”との出会い。
text by
松岡修造Shuzo Matsuoka
photograph byNanae Suzuki
posted2020/01/20 08:00
「前動作がない、よけづらい蹴りって言うんですかね。ノーモーションでふっと力を抜いて蹴る……」対談は、徐々に高度な話になっていった。
「自分に合った型が見えてきた感じですね」
伊藤「そうなんですけど、やっぱり自分の情報がライバルに伝わるのって怖いじゃないですか。僕はそれほど運動神経が良いわけではないし、僕よりセンスの優れた選手はたくさんいるはずなんです。今はパラの強化選手が増えてきているので、ちょっとでも弱点が伝わるのは避けたい。基本、テコンドーは相手の嫌がるところを攻めてポイントを取る競技なので、どうしてもそこは過敏になります」
松岡「なるほどね。それで、新見先生の道場に通うようになって、何が一番変わりましたか」
伊藤「テコンドーってステップを大事にしていて、前後に細かく動くんです。ただ、僕はそれをやるとステップの方に意識がいって、たまに相手の蹴りをくらってしまう。それを先生に話したら、まずはそのステップをやめなさいと。それはテコンドーの常識的にはかなりイレギュラーなことなんですけど、ステップをやめたら相手の動きが良く見えるようになったんですね。それまではステップに気を取られて相手の蹴りをくらっていたのに、それがかなり改善されました」
松岡「何となく自分に合った型が見えてきた感じですね」
伊藤「先生も現役の時はステップを踏まないで、相手のことをよく観察していたそうです」
「ノーモーションで力を抜いて蹴りを出す」
松岡「肝心の蹴りについてはどうですか」
伊藤「蹴りも普通は膝を上げてこうステップで蹴りますよね。先生はテコンドーではないテコンドーをする方で、蹴り方もちょっと違う。脚を伸ばしたまま、こうやって力を入れずに上げる。普通は床を踏んで、それで蹴りのスピードを出すんですけど、僕らはスピードよりも初動を抑えることを意識しています」
松岡「もう少し具体的に言うと」
伊藤「前動作がない、よけづらい蹴りって言うんですかね。ノーモーションでふっと力を抜いて蹴りを出すので、相手にとっては不意に蹴りが来る感じがするようです」