松岡修造のパラリンピック一直線!BACK NUMBER
パラテコンドー日本代表、伊藤力が
修造に語った“先生”との出会い。
text by
松岡修造Shuzo Matsuoka
photograph byNanae Suzuki
posted2020/01/20 08:00
「前動作がない、よけづらい蹴りって言うんですかね。ノーモーションでふっと力を抜いて蹴る……」対談は、徐々に高度な話になっていった。
「僕の階級は出場したのが2人でした」
松岡「経歴を調べたら、全日本2連覇とあったからてっきり。これは最近のことですか」
伊藤「少しずつですけど、男子の選手も増えてきてます。2016年当時は僕しかいなくて、でも協会の予算はあるから色んな大会に連れていってもらえるんですけど、ただそこでも負け続け……。年が明けて2017年2月頭、USオープンでようやく勝つことができました」
松岡「USオープンって、あのUSオープンですか?」
伊藤「はい、テニスとかでは憧れの。ただ、パラテコンドーは参加する選手も少なくて、僕の階級は出場したのが2人でした。アメリカ人と僕の2人だけ」
松岡「エッ? USオープンに2人だけ?」
伊藤「もちろんオリンピック競技のテコンドーは何千人と出るんですよ。USオープンですから。ただパラの方だと僕の階級は2人だけで、そこで僕が間違って優勝しちゃうんです」
松岡「優勝!」
伊藤「相手は見た目強そうなのに、蹴りが入ったら『痛い』って言って、1ラウンドで棄権しちゃった。それで『USオープン優勝』。聞こえはすごいじゃないですか。その結果を見て、日本のマスコミがざわつきだすんです。伊藤というやつがパラテコンドーという新しい競技でUSオープンを制した。車いすテニスの国枝慎吾さんくらいすごい選手が現れたんじゃないかって」
松岡「ハハハハ」
伊藤「そこからメディアの取材がめちゃくちゃ入るようになって、僕の知らないところで盛り上がり始めたんです」
「格好つけてもしょうがないので」
松岡「取材で、『優勝おめでとうございます』と。持ち上げられますね。その時、参加したのは2人だけだったとは言えないですよ」
伊藤「いや、そこは言います、ちゃんと。格好つけてもしょうがないので。ただ、そこで取材を受けて、しっかり練習をやらないとマズいぞという風に僕の意識が変わったんです。もっと練習の量を増やすとか、動きを理解しないと成長できない。さらに質を上げていくために、オリンピックの代表候補合宿に参加させてほしいと願い出たんです」
松岡「それは強くなりますね。環境としては申し分ないです」
伊藤「月1回の合宿に混ぜてもらえるようになって、そこから自分の実力も一気に伸びたと思います」