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優勝を確信したのは残り0.8秒──。
天皇杯、SR渋谷の壮絶な全員バスケ。
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byYukihito Taguchi
posted2020/01/14 20:00
チャールズ・ジャクソンとどちらを起用するか伊佐HCも迷ったそうだが、期待に応えて活躍したセバスチャン・サイズ(2番)。
ボールプレッシャーが最大のキー。
緊張感のある場面で、川崎のお株を奪うようなプレーを見せたことは、同点に追いついた事実以上の重みを持っていた。だから、伊佐HCはこう表現する。
「決勝戦は結果的に1点を争うクロスゲームになったことからも、ファジーカスを引き出せという指示を遂行してくれたことからも、あれは後半につながるビッグプレーだったと思います」
攻撃のシーン1つにも、かくも多くの意図が込められ、その成果が現れている。それでもなお、伊佐は優勝の要因については、「守備」の原則にあると明言している。
「ボールプレッシャーが僕らの最大のキーです」
相手チームの攻撃時に、ボールを持っている選手とボール自体に激しくプレッシャーをかけること。それこそが、渋谷がもっとも大切にしているプレーである。
笑いながら守っている関野。
そんな彼らの守備を象徴するのが、この試合の第2クォーターの残り8分29秒、相手からスティールした石井が決めて20-16となった後のこと。川崎は、熊谷尚也のスローインを、急造のPGを任された辻が受けた。
相手陣内の深いところで、関野が猛然とプレッシャーをかけにいく。それでも辻はどうにかボールを運んできたが、ハーフラインをちょうど越えるあたりで、川崎のファジーカスの陰から石井が辻に向かって出て行った。石井のトラップに一瞬だけひるんだ隙に、2人がボールを奪いにかかる。最後は石井がボールをつかみ、そこから3秒もかからずに、サイズがレイアップを決めた。この直後、川崎はタイムアウトを取らざるを得なかった。
ボールプレッシャーの申し子である関野について、伊佐HCはこう評している。
「相手にボールを持たせて、笑いながら守っているんですよ。ちょっと気持ち悪いくらいですが(笑)、相当、良いディフェンダーになるんじゃないかなと。彼はもっと伸びると思います」
普通ならば苦しいと感じるはずの守備の局面の心理について、関野は笑顔を浮かべてこう話していた。
「自分たちの得点の後、相手の攻撃が始まるときにディフェンスをセットするんですけど……1対1の場面だなと気づいた瞬間に、他のことは考えないでよくなるじゃないですか。『絶対に守ってやろう、絶対にボールを獲ってやろう』と思って、なんか、笑っちゃっていますね」