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優勝を確信したのは残り0.8秒──。
天皇杯、SR渋谷の壮絶な全員バスケ。
posted2020/01/14 20:00
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph by
Yukihito Taguchi
渋谷、青山学院。
令和になって初めての天皇杯で優勝したサンロッカーズ渋谷は、東京都渋谷区にある青山学院記念館という体育館をホームに戦うバスケットボールクラブである。
新春の箱根駅伝の青山学院大学がチーム全員で1本のタスキをつないで頂点に立ったように、まさに「全員バスケ」で渋谷は5年ぶり2度目の天皇杯のタイトルを手にした。
川崎ブレイブサンダースとの決勝は、大会史に残る死闘となった。スコアは78-73。
勝利の要因はどこにあったのか。
石井講祐と関野剛平の2人の新加入選手と、伊佐勉ヘッドコーチ(HC)の言葉や決断とともに振り返っていく。
3人の外国人のうち、誰を起用するか?
決勝当日の1月12日、伊佐HCは4時半に目が覚めた。
前夜に布団に入ってから3時間しかたっていない。睡眠は頭の回転をよくしてくれるから、「もう少し眠らなければ……」と考えて、ウトウトしたものの、およそ1時間がたったころ部屋のカーテンを開けた。
8時に予定されているコーチ陣のミーティングまでは時間がある。前の晩からどうしても決断しきれなかった問題の答えを探るため、思考を巡らせることにした。
外国籍選手をメンバーに登録できるのは2名まで。そんなルールがあるから、チームにいる3人のうち誰をこの試合で起用するのかについて、最後まで頭を悩ませていたのだ。
まず、スモールフォワード(SF)が本職で、パワーフォワード(PF)もこなすライアン・ケリーを起用することについてはすぐに決まった。アシスタントコーチ(AC)陣からもほぼ異論はなかった。
悩んだのは、次の2人の内のどちらを起用するのかについて、だった。
1人目の候補が、パワーに秀でたセンター(C)のチャールズ・ジャクソン。
今季ジャクソンとケリーの2人で戦ったリーグ戦で、敗れたのは10月23日の宇都宮ブレックス戦だけ。宇都宮は負傷などでインサイドの選手3人を欠いていた非常事態ゆえに、極端に機動力重視の戦いを挑んできた試合だった。いわば奇策にやられてしまった。見方を変えれば、正攻法の戦いでは一度も負けていない。
また、ジャクソンは前日の天皇杯準決勝に出場していないためフレッシュな状態だ。そのうえ、今季はすでに川崎とリーグ戦を2試合戦って1勝1敗だったが、勝ったほうの試合はジャクソンがチームトップタイの22得点をあげて勝利に貢献してくれていた。