マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
村上宗隆を一目で「この子はプロ」。
高校時代の監督が語る練習法と号泣。
posted2020/01/13 11:40
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Kyodo News
中学時代から有名だった「清宮幸太郎」が騒がれて早稲田実業高に入学した2015年・春、九州・熊本では、「村上宗隆」という野球少年が、音もなく九州学院高に入学していた。
「私、村上が中学の時は一度も見てないんですけど、ウチに入ってきて初めて見た時に、あ、この子はプロに行くな……って思いましたね」
そうヤクルト・村上宗隆を語るのは、九州学院高の育ての親・坂井宏安監督だ。
「体は大きいのに、力任せじゃない。バッティングにクセがないんです。バットの振り出しがスムースで、頭が股間の真上で動かない軸回転のスイング。それ以上にいちばん感心したのは、きちんとしたトスバッティングができること。高校1年で、村上みたいにトスバッティングの上手な選手は見たことないですね」
高校1年、あまりに見事なスイング。
記憶がよみがえってきた。
九州学院・村上宗隆を初めて見た1年生の夏予選。試合前の見事なトスバッティングをよく覚えている。
多くの選手が、前でバットにボールをチョコン、チョコンと合わせているだけの中で、1年生・村上宗隆は1球1球明確なトップとインパクトを作って、ワンバウンドで相手に打ち返す。
つまり、実戦のスイングと同じ作法で、丁寧にトスバッティングを繰り返す。本当の意味で「試合前の練習」になっていた。
「低いボールも手で返すだけじゃなく、ちゃんと柔軟な膝の対応で打ち返してね。この子は上手いなぁ……と思いましたね。当時はまだ体も細くて、パワーよりボールを捉える上手さのほうが目立ってましたから。練習して、練習して、スイングスピードが上がって、インパクトも強くなって、打球が上がるようになった。最初から今みたいなホームランバッターではなかったんですよ」
とにかく、よく練習する選手だったという。
「でもね、ただやみくもにやるわけじゃないんです。自分のためになる……というか、これはいい練習だと思ったら、トコトンやるんですね。これをやれば自分のためになる、自分のためになれば、チームのためになる。だから練習する。練習に対して、ものすごく純粋な入り方をするんです」