酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
ワンポイント廃止は時短にならず。
見習うべき高校野球のスピード感。
posted2020/01/15 11:40
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph by
Hideki Sugiyama
MLBは、今季から「スリーバッター・ミニマム・ルール」を導入する。
これは「(故障や急病の場合を除いて)投手は最低でも打者3人と対戦するか、イニング終了まで投げなければならない」というもの。要するにワンポイントリリーフ(MLBでいうシチュエーショナル)という投手の持ち場を廃止するということだ。
これまでの例からして、NPBも将来的にこのルールを導入することになるだろう。
野球好きの間からは「ワンポイントリリーフは、強打者に対峙したチームの有効な切り札であり、これを禁止すれば試合の妙味を削ぐ」という批判がでている。
古い話で恐縮だが、昭和中期、王貞治が手の付けられない打棒をふるっていたころ、大洋の名将・三原脩は左腕の平岡一郎をワンポイントで起用。平岡は「王キラー」と呼ばれた。
こういう形で、左の強打者に左投手、特に変則投法の投手をぶつけることを「ワンポイントリリーフ」と言う。これはプロ野球の妙手の1つである。そのデータを調べると、新ルールによる時短の影響は軽微だと思われる。
そもそも日本プロ野球の代表的なワンポイントリリーフとされる平岡一郎や永射保も「打者1人」で降りた試合は実際には多くはなかった。王貞治ら強打者との対戦で急遽マウンドに上がって、その回を締めくくって降板することが多かったのだ。
ワンポイントリリーフはごく少数。
実は、昭和の時代よりも今の方が投手の持ち場の細分化は進んでいる。今の投手のほうが、細切れの起用になっており、これは日米共通である。
それでも「ワンポイント」の起用は限定的だ。
2019年、NPBとMLBで50試合以上登板した投手のうち1登板当たりの対戦打者数が「3」を下回っていたのはNPBで2人、MLBでも3人だけである。
<NPB>
嘉弥真新也(ソフトバンク)
2.37人(54登板/128人)
小川龍也(西武)
2.85人(55登板/157人)
<MLB>
オリバー・ペレス(インディアンス)
2.58人(67登板/173人)
アダム・コラレック(レイズ/ドジャース)
2.86人(80登板/229人)
アンドリュー・チャフィン(ダイヤモンドバックス)
2.92人(77登板/225人)
全員が左腕だ。
2019年の嘉弥真の54登板のうち、1人だけで降板したのは16試合だけ。ペレスの67登板のうち1人だけで降板したのは17試合だけだった。