話が終わったらボールを蹴ろうBACK NUMBER
神戸で誰よりも不可欠な男・山口蛍。
劣勢で輝き、初タイトルをもたらす。
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byGetty Images
posted2020/01/08 20:00
イニエスタらビッグネームがどうしても目立つが、山口蛍の不可欠さも誰もが同意するところだろう。
鹿島の対応を上回ったチーム力。
山口が指摘したのは、攻撃の際の狙いだ。
いつもはビジャや古橋亨梧が相手の裏を狙うことで攻撃の流れができていた。しかし、この試合では鹿島が裏を警戒し、イニエスタら攻撃陣に対してマンツーマンで執拗なマークをつけたために、なかなか裏への配球ができなかった。
どうしても近場でダイレクトのプレーが多くなり、その分精度が求められたが、正確さを欠いていた。それが山口のいう「うまくいかない部分」だったと言える。
「いつも通りにやれば、先制した後に自分たちの展開に持っていけたけど、できなかった。それは今後の自分たちの課題だと思います」
しかし、それでも勝つところに神戸の進化の跡が見える。リーグ戦序盤の大量失点をつづけていた頃であれば、後半の押し込まれた時間で失点していたことだろう。しかし、いやらしい鹿島を完封したという結果は、「耐える」ということを実践できるようになったチーム力の証でもある。
「うまくいかないことが多かったし、それが鹿島の強さだと思うけど、それでもしっかりと勝ち切れたのは自分たちの成長だと思います」
山口は少し誇らし気にそう言った。
終了直後、相手選手に歩み寄った。
それにしても神戸で、山口は本当に影の番長的な存在感を発揮している。この日の試合での献身ぶりもそうだが、何より人間としての深みを感じたのが、試合終了の笛が鳴った後の山口の振る舞いだった。
味方選手が優勝の歓喜に沸き、抱き合い、肩を叩きあって喜んでいる中、山口は相手選手のところに歩み寄り、ひとりずつ握手を求め、鹿島の選手たちに敬意を示したのだ。喜びたい気持ちをぐっとこらえ、敗者の気持ちに寄り添う。簡単そうだが、なかなかできるものではない。
そんな選手が神戸の中盤にいるのだ。