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酒井高徳、神戸へきて「良かった」。
スター選手と日本人を繋ぐ仕事。

posted2020/01/07 19:00

 
酒井高徳、神戸へきて「良かった」。スター選手と日本人を繋ぐ仕事。<Number Web> photograph by Getty Images

酒井高徳は神戸にプレー以上のものをもたらした。そして酒井自身も、大きな幸福をこの地で手にすることになった。

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了戒美子

了戒美子Yoshiko Ryokai

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Getty Images

 '18年7月22日、イニエスタの神戸でのデビュー戦を取材したときのことだ。誰だったか失念してしまったのだが、試合後のミックスゾーンで攻撃陣の選手がこんな不安をもらしていた。

「イニエスタは思いのほか“速い”から、脚が遅いと思われないか心配」

 その試合でも顕著だったが、イニエスタは視野が広かった。前後左右に広いのはもちろん、先の展開さえもお見通しだ。

 だから、ここという場所にすばっと強いパスが出てくる。その思考の速さ、パスの強さ、それをトータルしたスピードに他の選手がついていけず、イメージを共有しきれず戸惑っているようにも見えた。その戸惑いが口をついて出たのが、このコメントだった。

 対戦相手だった湘南ベルマーレの選手たちは、世界的名選手とのユニフォーム交換はできなくても写真を撮りたくて、もしくは握手をするだけでもと、ロッカーの前で待ち受けていた。

 異世界からやってきた憧れの存在と国内でチームメイトになるなんていう想像すらしなかった事態が起きているのに、その事態ゆえに脚が遅いなんて思われたくない。しかも、おそらくその選手は素走りの遅い選手ではなかったのだ。だからこそ遅いなんて思われたくなくて、そんな不安が口をついたのだろう。

イニエスタがいても10位だった。

 しかし'18年の神戸は結局10位に終わった。イニエスタがいても、またその前年に加入していたポドルスキがいてもうまくいかないのか。

 過去にJリーグでもよくあったケースだ。イニエスタほどでなくても、能力のある助っ人が国外から来た時にその助っ人が力を発揮できず、うまくかみ合わずに終わってしまう。イニエスタほどの選手でも、ひとりでチームを変えることは難しい。そんなふうに見えた。

 状況が一変したのは、多くが指摘するところだが、やはり'19年夏に酒井高徳が加入して以降のことだ。

 8月17日の浦和戦で先発、2連勝ののち1敗を挟んで3連勝、また2連敗するのだが2連勝。加入時には15位だった順位を最終的に8位にまで引き上げてリーグ戦を終了した。そして、天皇杯では鹿島を完全に抑えて優勝した。

【次ページ】 酒井高徳「強いチームってわかってた」

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