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井岡一翔「いくしかないと覚悟を」
エリートの弱点を克服した初防衛。 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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photograph byHiroaki Yamaguchi

posted2020/01/06 12:15

井岡一翔「いくしかないと覚悟を」エリートの弱点を克服した初防衛。<Number Web> photograph by Hiroaki Yamaguchi

「打たせずに打つ」タイプだった井岡一翔が、被弾覚悟で前に出た。その気迫は世界の舞台につながっている。

井岡もかつては被弾を嫌うタイプだったが……。

 井岡も少々の被弾を「必要なロス」として受け入れられるタイプのボクサーではなかった。ただし、2018年に復帰してからはより攻撃的なボクシングを志向し、それまでは手を付けていなかったフィジカルトレーニングに励んで持ち前のテクニックにパワーを加えていた。

“ノックアウトダイナマイト”の異名を持つ元世界王者、内山高志氏の言葉を借りれば「男らしいボクシングをするようになった」のだ。それに加えて1試合にかける意気込みが以前にも増して高まっていた。

「いままでの2敗はどちらも2-1判定で後味の悪い負け方だった。出し切った試合をすれば、負けたとしても“たられば”はないと思う」

 これまでの2敗はいずれも世界タイトルマッチで、'14年5月はアムナット・ルエンロエン(タイ)のディフェンシブで独特なスタイルに自らのボクシングをさせてもらえず、3階級制覇に失敗した。

 4階級制覇をかけた'18年大みそかは実力者ドニー・ニエテス(フィリピン)と激しいせめぎ合いを演じ、技巧とパワーを崩しきれずに涙を飲んだ。この2つの経験が井岡に迷いなく泥臭いファイトを選択させたのだ。

愚直に前へ、そしてボディ。

 中盤からの井岡は愚直に前に出続け、シントロンのボディを叩き続けた。挑戦者の左ストレート、右フックを被弾しながらも、より攻撃的な姿勢と与えたダメージで上回る。KOこそならなかったが、最後まで攻めの姿勢を崩さず、反撃を許さず、押し切った。試合後に堂々と「出し切った」と言葉にした。

 今後のターゲットは、復帰以来掲げている海外進出、そしてビッグマッチだ。「世界で活躍するボクサーとして認識されたい」。試合翌日の記者会見で井岡はあらためてそう口にした。

【次ページ】 標的はエストラーダとゴンサレス。

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