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井岡一翔「いくしかないと覚悟を」
エリートの弱点を克服した初防衛。
posted2020/01/06 12:15
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
2019年の国内男子ボクシングはWBO世界スーパー・フライ級の井岡一翔(Reason大貴)、WBOフライ級、田中恒成(畑中)の両王者による防衛で幕を閉じた。
田中が快勝した一方で、日本人選手初の4階級制覇王者の井岡は指名挑戦者、ジェイビエール・シントロン(プエルトリコ)に前半苦しめられながらの判定勝ちで初防衛に成功した。
完成されたボクサーとの印象が強い井岡が、大みそかのリングで新たな一面を見せた。
簡潔に表現すれば「泥臭くても勝つ」。2階級制覇王者の井岡弘樹氏を叔父に持ち、デビュー当時から注目を浴びる井岡はエリートというキャッチフレーズが付きまとうが、今回はそうしたイメージとは一線を画すファイトとなった。
試合が始まるとエリートぶりを発揮したのはオリンピックに2度出場し、プロで無敗のシントロンだった。自慢の脚でポジションを巧みにずらし、距離をキープしながらロングレンジからの左ストレートをカウンターで打ち込む。
身長とリーチで劣る井岡は距離を詰めることができない。サウスポーとの対戦がおよそ6年半ぶりという影響もあるのか。スタートの2ラウンドは、プエルトリコのテクニシャンが日本の職人を翻弄しつつあった。
「少々もらってもいくしかない」
どうやって立て直すのか。井岡の言葉にこの試合にかける思い、そして「新たな一面」が凝縮されていた。
「序盤にけっこうもらい出したときに、少々もらってもいくしかないと覚悟を決めた」
いわゆるエリート・ボクサーは「少々もらう」ことを嫌がるものだ。パンチをもらうのが怖いというより、テクニックに自信があるがゆえに、被弾すること自体を許せないのだろう。
アマチュア時代から身についたその思いを払拭できず、大成できなかったり、長くチャンピオンでいられなかったりしたボクサーがたくさんいる。