マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
ピコピコハンマーは暴力ですか?
野球指導にユーモアを導入する方法。
posted2020/01/07 07:00
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Hideki Sugiyama
シーズンオフの楽しみは、野球の人たちの集まりだ。
オフの気楽さに、お酒も手伝っての放談が意外な「学び」の場になる。
いやあ、今日は勉強になった! なんて、叫んで帰る人などいない。
皆、意外とおだやかに、何事もなかったようなローテンションの中で、実はお腹の中で、シメシメ得した……そんな密かな“おみやげ”を携えてのご帰還となる。
「暴力や暴言って、いったいどこからがそうなんですか?」
大卒5年か6年か……まだ学生にも見える若い監督さんが、甲子園に5度も6度も出た指導者の方に訊いている。
そう言われても困るよなぁとやんわり受け止めておいて、「生徒がそう感じたんなら暴力だし、暴言なんだろうよ」と、絶妙な回答で難問をいなしてみせた。
「正解」の存在しないこの命題に、間違いなく1つの回答ではあろう。しかし、そこから話が展開していかない。まったく、その通りだからだ。
ピコピコハンマーは暴力か。
しばし沈黙のあとで、他の監督さんがこんな切り出し方をした。
「こんなこと言ったら、怒られるかもしれませんが……いいですか?」
最初の質問者と同じぐらいの若い監督だ。この会には初めて参加するという。
「ビートたけしっているじゃないですか。テレビで、一緒に出演している人が変なことをしゃべったり、噛んだり、すべったりすると、足元からトンカチ持ち出して頭たたくんですよ」
叩くとピコンと音のする、プラスチックでできた「ピコピコハンマー」のことを言っている。
「私、考えたんですけど、練習の時にあれでピコン、ピコンやったら、それでも暴力になりますかねぇ」
一瞬、ドッと笑い声が起こって、一気に座がなごむかと思ったら、逆にみんな引いてしまった。
「そんなこと言ってる場合じゃないだろう」
最初の質問者の若い監督にたしなめられて、“ピコピコハンマー”の監督さんは小さくなってしまった。
「いいじゃないですか。ボクならすぐやってみるなぁ」
ほんとにそう思ったので助け舟を出したのだが、ほかに乗ってくる人はいなかった。