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個性を伸ばしても“俺様”にならない。
高校、Jと違う三菱養和の面白さ。 

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谷川良介

谷川良介Ryosuke Tanikawa

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photograph bySatoshi Shigeno

posted2019/12/29 11:40

個性を伸ばしても“俺様”にならない。高校、Jと違う三菱養和の面白さ。<Number Web> photograph by Satoshi Shigeno

東京・巣鴨の一角にある三菱養和SC。アクセスも風通しも抜群な総合スポーツクラブだ。

トップあっての下部組織ではなく。

 発足は1975年。青少年の健全な心身育成を目的に始まったスポーツ事業の中心にサッカーがあった。三菱グループ創業100周年の記念した事業のひとつで、当時プロジェクトグループが西ヨーロッパ諸国のサッカー(スポーツ)クラブをモデルに組織づくりの礎を築いた。

 かつて監督としてユースチームを率いてタイトル獲得に貢献し、現在は統括責任者を務める秋庭武彦氏はこう話す。

「三菱養和会の理念として『涵養』という言葉があります。水が自然と石や土に沁み渡るように、少しずつ育んでいくという意味なんですが、サッカークラブ自体も下の世代から、つまりスクールから始まり、ジュニア、ジュニアユース、ユースと子ども達の成長に応じて徐々に対象を拡げてきました。

 Jクラブのように“トップがあっての下部組織”という成り立ちとは正反対ですよね。もともと青少年の心身育成を目的としているので、サッカーに限らず、フェアプレー、そして個々の成長を促すことが指導の大前提にあるんです」

「街クラブとは思っていない」と秋庭氏が表現するように、整備された組織と恵まれたハード面で実績を積み上げてきた三菱養和SCだが、ここ30年はJリーグ発足など、日本サッカーの流れが大きく変化したことで難しさも感じた時期だという。

「昔は有望な素材が多く揃う時代もありました。ただJリーグが発足すると、今ではほとんどのクラブが下部組織を持つようになり、小学生までスカウト網が広がっている。その中で選手を集めるのはなかなか簡単ではない」(生方監督)

 Jクラブのようなスカウトはなく、セレクションのみ。個人を伸ばす育成術に惚れて来る親御さんもいるというが、「将来の姿を描ける」(生方監督)選手を選び、鍛え上げ、チームを形成している。

清水内定・栗原イブラヒムに聞いた。

 では、選手たちは実際、その中でどのように育まれているのか。

 小学5年から三菱養和SCに通う栗原もJクラブのセレクション落選を受けて、巣鴨のジュニアチームに加入してきた1人だ。高体連に行けば、多くの人の目に止まりやすい華やかな選手権があり、Jクラブに進めば「トップ昇格」というチャンスが広がる。それでも栗原は途中で進路を変えることもできる中で、三菱養和SCに来た選択、そして高校年代まで過ごしたことが間違っていなかったと話す。

「自分の役割をしっかりと自覚して、それに対して100%出し切ることを覚えました。ピッチに立つ11人、それぞれ特徴が違うじゃないですか。そういうところで自分の仕事を理解できるようになった。

 ドリブルが得意な選手がたくさんいるのに、自分がずっとボールを握って時間を使いすぎるとチームとしても良くない。自分が仕事をするのはゴール前でいいと思っているんで。それぞれが理解しあって戦えたことはプラスになった」

 生方監督に「初めて見たときから誰もが特別だなと。大きいし、足元もある」とセレクション当時を回想させる栗原でさえも「自分の役割は収めて、さばく。そしてゴール」と至ってシンプルにサッカーをする。フランス代表FWジルーのような、活かし活かされる選手をイメージしている。

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