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2019年に史上最少だった決まり手。
突き押し全盛、投げや吊りは不遇?
text by
西尾克洋Katsuhiro Nishio
photograph byKyodo News
posted2019/12/09 10:30
琴勇輝(右)を筆頭に、突き出しを得意とする力士が増えている。この流れはしばらく変わりそうにない。
過去最少だった決まり手が3つ。
突き押しが増えたということは、当然減る決まり手も出てくる。今年の決まり手の数を集計すると、過去最少数だった決まり手が3つも出ていていることが発覚した。
下手投げ、すくい投げ、そしてつり出しである。
すくい投げは1968年には全体の4.5%を占めていたが、今年は1.1%と実に4分の1まで減少しており、下手投げは1978年の3.8%から今年は1.0%まで落ちている。こちらもおよそ4分の1だ。
今年、この2つが決まり手になった取り組みは肩透かしより少ないのだ。
ではなぜこの2つの投げは減少しているのだろうか。
考えてみると、大栄翔や御嶽海が投げられているイメージがあまり浮かばない。彼らが敗れるのは、押し負けるか、突き落とされるか、そして捕まって寄り切られた時である。
要するに、捕まえた後で投げる必要性が無いのだ。流れの中で崩しながら振った際に投げとして決まることはあるが、四つの力士としては捕まえればあとは寄れば良いわけだ。
データ面から確認してみると、下手投げで多く敗れている力士として、大翔鵬や宝富士で、すくい投げで多く敗れているのは朝乃山、勢、貴源治といった名前が出てくる。
この2つの投げは、四つの力士同士の取り組みで相手に崩すときに有効ときるのではないかと思う。
つり出しは今年一度しか出なかった。
つり出しの変化はより劇的だ。
1971年には決まり手全体の9.4%を占めていたが、今年はなんと0.05%まで低下した。実は今年、幕内でつり出しは一度しか出ていない。1971年には押し出しとほぼ同数だったつり出しは、もはやほぼ見ることが出来ない部類の決まり手にまで地位を落としているのだ。
その理由は想像がつく。平均体重が160キロを超える中、つり出しを決めるには相当な力が必要だ。思い浮かぶのはかつての把瑠都や栃ノ心だが、現在ヨーロッパ系の力士は大相撲全体に4人しか在籍していない。
また突き押し増加傾向もあり、四つの力士からすると捕まえていまえば吊りという選択を取るまでもなく、寄り切れば良い。
つまり近年の大相撲の潮流が、つり出しという選択肢の意味を小さくしているのだ。つり出しが輝く場面があるとすれば、それは巡業などで魅せる相撲を取る時なのだろう。