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ラグビー決勝戦で響いた3つの歌。
2019年秋の記憶を留めるために。
text by
涌井健策(Number編集部)Kensaku Wakui
photograph byGetty Images
posted2019/11/11 18:00
決勝戦のスタンドで盛り上がるイングランドファンの人々。彼らはとにかく陽気だった。
試合が始まると、徐々に散発的に。
その決勝戦でイングランドが敗れて10日ほどが経つ。試合前の歌声と熱量では完全に対戦相手を凌駕し、スタジアムで我が物顔だったイングランドは、しかし、試合開始のホイッスルが鳴ると意外にもミスが目立ち、徐々にスプリングボクスに主導権を握られていった。
試合中も選手たちを鼓舞するようにスタンドから響いた『Swing Low』の声も、徐々に小さくなり、散発的なものになっていった。
そして、後半マピンピとコルビにトライを決められるとほとんど歌声は聞こえなくなっていた。ぼくの5つ後ろの席にいて、大声で声援を送っていたイングランドのユニフォームを着たお兄さんは、酒が回ったのか、敗北を目撃したくないのか、熟睡モードに切り替わっていた。
残したいのは「熱狂の記憶」。
発売中のNumberPLUS「桜の証言」は、そのタイトル通り、ベスト8に進出した日本代表選手の独占インタビューを中心に、ジェイミージャパンの激闘を詳細に振り返っている。
だが、それはこの特集の内容の「半分」に過ぎない。予選プールから決勝トーナメント、9月20日の開幕戦から、ここまで書いてきたように多くの歌声が響いた11月2日の決勝戦まで、ラグビーワールドカップの「すべて」を収録しているのだ。
もちろん、ピッチの上で起こったことの「すべて」を、文字と写真とイラストとデザインで、紙の上に表現できるはずがない。それだけ選手たちのプレーぶりはすさまじかったし、日本列島のラグビーへの熱狂は予想以上だった。中継やニュース映像でもそれは多くの人々に伝わっていると思うし、瞬間の情報量の勝負なら紙メディアは映像には勝てない。
でも、それでも、なんとか2019年秋の「熱狂の記憶」を誌面に閉じ込めたい――そんな思いで作ったのが、この「桜の証言」だ。
横浜に響いた『Swing Low』や『God Save the Queen』のように、それは試合のごく一部、大会全体のごくごく一部かもしれないけれど、人々の記憶に残るだろう部分、残って欲しい部分を抽出して記事のラインナップに落とし込もうとした。
デクラークは数年前まで3、4番手だった。
巻頭から約15ページに渡り、決勝戦と優勝した南アフリカの記事を掲載。
藤島大さんによる決勝戦のマッチレポート「使命感が奏でた凱歌」、五郎丸歩さんの決勝戦解説「ラグビーの常識が覆された80分」、ニック・サイード記者による南アフリカ初の黒人主将コリシを中心としたインサイドレポート、そして決勝戦もフル出場したCTBデアレンデ、今年の世界最優秀選手に選出されたFLデュトイの独占インタビューなど、様々な角度から4年に一度のファイナルに迫っている。
その中で、やや意外だったのが、サイード記者によるレポート内にある以下のような指摘だ。
“数年前までデクラークは代表でスクラムハーフの3、4番手だった”
日本戦で獅子奮迅の活躍を見せ、ウェールズのFWにつかみかかり、決勝戦でも試合を見事にコントロールした金髪・長髪の9番は、勝手に長らく不動のレギュラーだったと思い込んでいたが、イングランドのクラブに移籍してから急成長したらしい。