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ラグビー決勝戦で響いた3つの歌。
2019年秋の記憶を留めるために。

posted2019/11/11 18:00

 
ラグビー決勝戦で響いた3つの歌。2019年秋の記憶を留めるために。<Number Web> photograph by Getty Images

決勝戦のスタンドで盛り上がるイングランドファンの人々。彼らはとにかく陽気だった。

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涌井健策(Number編集部)

涌井健策(Number編集部)Kensaku Wakui

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photograph by

Getty Images

“Swing low,sweet chariot,
Coming for to carry me home,
Swing low, sweet chariot,
Coming for to carry me home.”

 11月2日、横浜国際総合競技場。ラグビーワールドカップの決勝戦が行われたスタジアムとその周辺は、歌に溢れていた。主な歌い手は、イングランドのファンの人々だ。

 最初にその曲が聞こえてきたのは、試合開始2時間ほど前、新横浜駅の新幹線ホームだった。「スウィングロー♪」。陽気なイギリス人たちがエスカレーターに乗りながら歌っていた。

 これが噂の『Swing Low』か、この人たちはもうビールを飲んでいるのかな、と珍しいものを見たような気持ちになったのだが、それは完全に早とちりだったことがすぐ判明する。

 新横浜駅の改札を出ると、もういたるところで同じフレーズのコーラスが響いているのだ。

 ワールドカップの垂れ幕の下で中年男5人組が肩を組んでいるかと思えば、駅前のハイボール居酒屋の前では早すぎる仕上がりを見せている若者が声をからし(彼はちゃんと試合を観戦できたのだろうか?)、スタジアムへ向かう途中のフェイスペインティングの行列では家族が子供も含めて歌っていた。セキュリティゲートの行列のなかでも大声を張り上げている。

 まだ試合開始前だ。スタジアムにも着いていない。そして何より、ところかまわず歌われるとうるさい。南アフリカのジャージを着たファンだって、苦笑しているじゃないか。

 でも、その野太い声が中心となった合唱を聞いているだけで、自然と笑顔になれた。

 ああ、これがワールドカップの決勝戦なんだ、勝負の場ではあるけれど、ラグビーの母国のファンにとっては祝祭の日なのだ――そんなことを実感していた。

「トゥイッケナムみたいですね」

 そして試合前の国歌斉唱、イングランドの『God Save the Queen』が始まると、客席で鳥肌が立った。

God save our gracious Queen,
Long live our noble Queen,
God save the Queen:
Send her victorious,
Happy and glorious,
Long to reign over us,
God save the Queen.

 ここが横浜であることを、日本で開催されているワールドカップの試合であることを忘れそうになるほどの大合唱。老若男女、イングランドを応援する人々の、そしてもちろんイングランドの選手の声が、スタジアムに響き渡った。斜め後ろにいた女性3人組は目をつむって、国旗を背中に広げて、高らかに歌い上げている。

 本場での観戦歴のある知人が「(ラグビーの聖地)トゥイッケナムみたいですね」と言っていた。自分自身はトゥイッケナムに行ったことがないどころか、イングランドの試合を生で観戦することすら初めてだったけれど、その歌声でスタジアムでスポーツをみることの幸福感が内側から滲んできた。

 そして、先ほどと同じことを思いながら、今度は少し涙が出てきそうだった。

 ああ、これがワールドカップの決勝戦なんだ、これからすごい試合が始まるんだ。

【次ページ】 試合が始まると、徐々に散発的に。

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