スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
ジャパンの南ア攻略法は存在する。
三たび、歴史的な夜にならんことを。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byNaoya Sanuki
posted2019/10/19 11:50
W杯前の親善試合で日本は南アに完敗した。それは認めたうえで、準々決勝がどうなるかは全く別の話である。
スクラムが五分ならば状況は変わる。
この試合を見直して、改めて現代ラグビーにおけるスクラムの重要性を認識した。南アフリカのここぞというときのスクラムは“強暴”と表現したくなるほどの破壊力を持っていた。
スクラムは減らしたいところだが、ゼロにするというわけにはいかない。ただし、今大会に入り、長谷川慎スクラムコーチにスポットライトが当たっているように、日本のスクラムは極めて安定している。
もしも、スクラム戦で五分に戦えるようであれば、南アフリカのFW戦における心理的優位性を削ることができる。
付け加えるなら、9月6日にはHOの堀江翔太が出ていない。ラグビーにおける「トータルフットボーラー」とでも呼びたくなる堀江ファクターがどう働くかも注目したい。
つなぐか、蹴るか、それが問題だ。
難しいのが、コンテストキックについての考え方だ。
これは日本のアタック戦略にも関わってくる。現在、ジャパンはアイルランド、スコットランド戦で見せたように「ポゼッション」を重視した戦い方と、ずっと取り組んできたキックを中心とした「アンストラクチャー」を作り出すふたつの選択肢を持つ。
正攻法で考えるならば、ティア1相手に成功を収めたポゼッションがファーストチョイスだろう。そうすれば、南アフリカの攻撃時間を削ることができる。
ただし、南アフリカはディフェンスが大好物だ。
私が4年前、『エディー・ジョーンズとの対話』を上梓したとき、エディーさんから南アフリカの特徴を聞いた。
「彼らはディフェンスを好みます。そしてディフェンスで相手を痛めつけ、そこからカウンターで一気に得点を取りにくる。このスタイルは、彼らがアパルトヘイトなど、人種隔離政策を行っていた社会背景と関連するものだと私は見ています」
この考察が、4年前の「ブライトンの奇跡」を生んだ。
エディー・ジャパンはポゼッションを重視していたが、あの日に限って、攻めなかった。蹴ったのだ。
ある意味、南アフリカに攻めさせたのである。大好物のディフェンスを彼らから奪い去り、戸惑わせた。それが勝因のひとつとなった。