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ランナーズハイとは自分を映す鏡?
「ハイ」の達人・片山右京が語る事。
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byWataru Sato
posted2019/10/03 07:00
現在は、東京オリンピック・パラリンピックの自転車競技の運営責任者を務める片山右京氏。
F1ドライバーとランナーズハイ。
そんな片山に貴重な時間をもらい、発売中のNumberDo『秋のラン メンタル強化大作戦』では「ランナーズハイ」についてインタビューした。
ランナーズハイという言葉自体はランニングをしない人でも聞いたことがあるはずだ。長時間走っているうちにふいに苦痛が消え、「多幸感」や「陶酔感」に包まれることで、永遠に走り続けられるように思えてくるという、ランナーにとって魔法のような瞬間だ。
近年の研究では「エンドルフィン」と「エンドカンナビノイド」という、2つの脳内物質が作用して訪れる時間だとされている。
エンドルフィンは長時間の運動に対して、モルヒネのように痛みや疲労を和らげるために前頭前皮質や大脳辺縁系で放出され、エンドカンナビノイドは身体的な負荷よりも精神的な負荷やストレスに対し、不安や苦痛を和らげるために生じるのだという。
人の経験に拠るゆえの探求の難しさ。
では、なぜランニングによってそうした物質が体内で生成されるのか。一説には狩猟時代の名残で、獲物を遠くまで追って駆けていっても疲れを感じないようにするという「生存本能」の一種ではないかと言われている。犬が餌を追うときも似たような生体反応が出るのだそうだ。
ランナーズハイのようにスポーツの世界でよく聞く超感覚に、「ゾーン」と呼ばれるものもある。打席でボールが止まって見えたという川上哲治、レース中に神を見たというアイルトン・セナなど、アスリートの証言は枚挙にいとまがない。
だがこうした体験は測定が難しく、そのため厳密な定義も難しい。ランナーズハイもゾーンも、いつ、どんなタイミングでそれが起きるか分からないし、「快」の度合いも人によって異なるからだ。
だからこそ、「それがどんなものか」という説明も必然的に経験に拠ったものになる。であれば、その深淵に迫るには、多くの人の経験談を集めるか、もしくは何人分もの経験を蓄えているひとりの人に聞いてみるか。