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北口榛花がドーハ世陸で見せた涙。
チェコ修行と、届かなかった6cm。
posted2019/10/04 07:30
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph by
AFLO
6センチ。
ドーハ世界陸上女子やり投げ予選。「絶対に決勝に進む」、北口榛花は強い意志で助走路に入った。
1投目57m34。修正を加えた2投目で60m84と記録を伸ばす。後方の観客席で見守っていたデイビッド・セケラックコーチが北口に指示を出す。最後の投てき。リズミカルな助走から大きく腕を振ってやりが放たれた。
60mのラインを超えたが、3投目は60m54にとどまり、順位を上げられなかった。
予選通過した12位の選手は60m90。目標にしていたファイナルへの切符は、6センチ差で掴むことができなかった。
「あと1mほしかった」
「やりを投げる時に、体もやりの方に向ければよかったのに体が開いてしまった」
後悔が募り、大粒の涙がこぼれ落ちた。
拭っても拭っても涙が溢れ出る。泣きじゃくる北口を、コーチは困ったような表情で見守っていた。
小学3年生くらいの少女に導かれ。
ドイツ・ミュンヘンから、チェコのプラハ行きの快速電車に乗り、ドイツの国境を越えて1時間ほどで目的地に着いた。駅前に1台だけ止まっていたタクシーに乗り込み、スタジアムに向かう。
サッカーのドマジュリツェFCの本拠地、とは言っても、お世辞にも立派とは言えないスタジアム。トラックではジュニアの200mレースが行われている。観客たちはソーセージを食べ、ビールを飲みながらのんびりと観戦している。町内運動会のような雰囲気で記録会が行われていた。
オフィスらしきところでスタッフに英語で話しかけてみたが、皆、肩をすくめるばかりだ。携帯の翻訳機能を使い、「日本人選手がやり投げに出場する」と打ち込み、チェコ語に訳して見せると、小学3年生くらいの少女が顔を輝かせた。
「ハルカ・キタグチ!」
私についておいでよ、と言うようにこちらを振り向きながら、小走りでスタジアムのスタンドに駆けていく。
「ハルカ!」
彼女が指差した先にいた選手が、こちらに顔を向けた。
やり投げの日本記録保持者で、今年の日本選手権の覇者はチェコのドマジュリツェで練習を積んでいた。