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ランナーズハイとは自分を映す鏡?
「ハイ」の達人・片山右京が語る事。
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byWataru Sato
posted2019/10/03 07:00
現在は、東京オリンピック・パラリンピックの自転車競技の運営責任者を務める片山右京氏。
ラン、車、登山、自転車を突き詰めた人物。
片山は中高時代から陸上部で長距離ランナーとしてならし、レーシングドライバーとなってからも日々の調整のためにランニングと接点を持ち続けてきた。
それ以上にモータースポーツ、登山、自転車と様々な分野を突き詰めた“極限アスリート”。今回の取材にはうってつけの人物だった。
予想通り、その経験談は人体の神秘を探っていくような実に興味深いものだった。
自宅から日大三高までの通学路でのランニングについて語っていたかと思えば、いつのまにか話はモナコのトンネルを300kmで駆け抜けて急ブレーキから再加速する瞬間に移り、“デス・ゾーン”と呼ばれる標高8000m超のマナスルで雪に埋もれていたところを描写していたのに、次にはダカールラリーの砂漠で疾走している――そんな具合だ。
ランナーズハイ、ドライバーズハイ、そしてクライマーズハイ。話題は次から次へと目まぐるしく移り変わっていった。まさに「ハイ」の達人だといえるだろう。
「僕は『歩く』と『走る』の境目がない」
濃密な経験の数々(半分以上は計り知れない)を聞いていると、都内のオフィスビルでスーツを着て話している姿が全く釣り合わないが、片山のこんな言葉を聞くとなるほどと納得もできた。
「僕は『歩く』と『走る』の境目がない。ただ延々と『行動』し続けるっていうかね。エベレストでベースキャンプに行くのに2週間以上かけて歩くのと、自転車のロードレースでスピードを出して走っているのが同じ、というか。
運転してスピードの出ているパリダカだろうが、ルマンだろうが、一定の時間、自分の中で『自分』をマネジメントできているかどうかなんです。実際の速度の問題ではなく、自分の中でスピードを持って動き続けているかがひとつの物差しになる。歩いていても、走っていても、車を運転しても同じです」
つまり2020年を前に膨大な事務作業に追われている今も、片山の感覚としては“走っている”。ただ、そのフィールドがこれまでとは全く違うというだけだ。