“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
ロティーナ監督の下で迎える新境地。
好機を生む水沼宏太の位置取りの妙。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2019/09/22 20:00
C大阪で存在感を発揮している水沼宏太。在籍5チーム目で新たな武器を身に付けようとしている。
浦和戦での絶妙なポジショニング。
浦和戦でも彼のポジショニングと松田との連係は、浦和に大きなダメージを与えていた。
「ロティーナとイバン(・パランコ/ヘッドコーチ)から、相手が3-4-2-1だったら、相手のウィングバックとCBの目線をサイドハーフに傾けろということを言われていた」
水沼はこの指示通り、FWブルーノ・メンデスとの距離を詰めながら、時にはシャドーのようなポジショニングで相手の3バックのラインを押し下げた。後半からは「ちょっとだけ僕が相手のCBの位置まで行き過ぎてしまっていた。ロティーナからも『もっと落ちても大丈夫だから、相手のボランチの真横にいろ』と言われたので、相手のボランチ脇を狙うポジションを取るようにした」と、ポジションを調整した。
「ボランチの脇を常に狙いつつ、チャンスであれば、CBとサイドバックの間のポジションにも入る。そうすることで、相手のサイドの選手が中央に絞るからこそ、サイドが開く。逆に相手のプレッシャーが早かったら、陸がちょっと中に入って、僕がウィングバックの位置まで行く。攻撃にも守備にも出ることができるポジションを作り出すことを意識した」
ボールに触れないアシスト。
そして、すぐに彼はビッグチャンスを作り出す。
47分、DF丸橋祐介が左サイドでボールを持ったとき、水沼は自身のマークに来た浦和の左ウィングバック汰木康也の動きを見ていた。
「ウィングバックの選手(汰木)は攻撃的な選手。ディフェンスに慣れていないなと思ったので、うまく陸を生かそうと意識しながら動きました」
水沼は一度右ワイドに張り出し、汰木の意識を自分に引きつけると、そこから中央に入り込むようにポジション移動を開始。汰木がそのまま自分について来たのを確認してから、一度首を振り、後方に松田がフリーでいることを確認した。
「(汰木が)かなり食いついてきていたし、相手のCBも僕に視線を向けたので、もっと中に入れば陸が完全に空くと思った」
そこからペナルティーエリア付近まで絞ると、丸橋からグラウンダーのクロスが届いた。
トラップしてシュートという選択肢もあったが、水沼はトラップするふりをしてスルー。完全にこの動きに翻弄された浦和ディフェンスは右サイドの松田をフリーにしてしまった。水沼と入れ替わる形でペナルティーエリアに侵入すると、そのまま右足を一閃。ゴール左隅に沈め、先制点をたたき出した。
「陸も僕がスルーすることを分かっていたし、ロティーナとイバンに言われたように、うまくディフェンスの目線を僕に引きつけてやることができた。もちろん陸のシュートが素晴らしかったけど、僕も物凄く気持ちよかったプレーでした」
滑り込んでガッツポーズをする松田に真っ先に抱きつき、殊勲のチームメイトをねぎらったが、このゴールは水沼の判断がなければ生まれなかっただろう。ボールには触れていないものの、ゴールを演出した見事な「アシスト」であった。