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中村匠吾は「天性の夏ランナー」。
MGC優勝を導いた1年前の完璧な準備。
text by

矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byTakuya Sugiyama
posted2019/09/17 11:45

五輪切符のかかる大舞台で、冷静な走りで優勝した中村匠吾。
嘔吐しても、走りに影響はない。
天候にも後押しされた。
「暑くなれ!」
これはレース前に陣営と中村自身が何度も念じた“呪文”のようなもの。MGC当日の天気予報は数日前には「雨」だったが、その後「曇り」になり、さらに当日は朝方こそ曇っていたが午前8時50分のスタート時には晴天。残暑の日差しを浴びた中村には、気温上昇という味方も加わっていた。
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「暑さはそこまで感じなかったし、汗もそこまで出ていなかった」
さらっと言う様子には、余分なことに気を取られない図太さもにじみ出ていた。36キロ付近では嘔吐したが、それも気にならなかったというのだ。
「少し内臓に来ていた部分があって、途中でお腹がきついときがあったのですが、嘔吐したら逆に楽になった。去年のベルリンでも途中で嘔吐していたけど、問題なく走れていたので今回も特に焦ることもなかった。後半40キロ過ぎからの勝負だと思っていたので影響はなかったです」
チームで走ることはやはりプラスになる?
レースでは、ワイルドカードで出場権を得た荻野と鈴木を合わせてチームから3選手が出ていたこともプラスに働いたという。
同チームから4選手が出場していたトヨタ自動車の服部勇馬が2位になったのもしかりだろうが、仲間の存在により「レース中に気持ちのゆとりがあった」(福嶋監督)という。
実際に、設楽悠太が先頭を独走していた時間帯に第2集団で鈴木が先頭に出ることが何度かあったのだが、「鈴木選手が途中で仕掛けてみんなの体力を奪ってくれた。それも勝てた要因だと思う」と中村は感謝する。
東京五輪の本番まで約11カ月。今後は基本的にこの1年間で手中に収めた「勝ちパターン」を踏襲しながら、来年8月9日午前6時のスタートまで続くカウントダウンの日々を過ごしていくことになる。