“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
ベンチ外、J3も経験した田中亜土夢。
劇的ミドルの裏にあった葛藤と自信。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2019/09/17 19:00
J1第26節浦和戦、緊迫した展開の中で投入され、決勝ゴールを奪った田中亜土夢。昨季苦しんだベテランがACL出場権を狙うチームに大きく貢献した。
緊迫した場面での投入。
ウォーミングアップ時から水沼宏太とともに声でチームを盛り上げ、浦和戦でDF松田陸が先制点を決めた時はベンチから真っ先に駆け寄って喜びを爆発させるなど、ベテランとしてチームの黒子役を買って出た。さらに同点の緊迫した状況で投入されたピッチでも、果敢に仕掛けながらも前からのプレスやも精力的にこなし、ピッチ内外でチームに刺激を与えた続けた。
「ロティーナ監督からは、守備面ではまず中央をしっかりと閉めろとよく言われている。攻撃面ではポジショニング。うまいタイミングでボックス内に入っていって、相手のマークが付き難いところに潜り込むことと、右からのクロスに反応すること。しっかりと監督の要求に応えながら、自分を出していくことを心がけました」
チームのタスクを遂行しながら、チャンスがあればゴールを狙う。そんな冷静かつ獰猛なアタッカーにビッグチャンスはやってきた。
「相手が一斉に下がっていくのが見えた」
84分、松田と水沼が右サイドでボールをつないだ時、田中は中央のシュートエリアに潜り込む場所を模索していた。水沼からのパスをFW鈴木孝司のフリックし、今度は松田が中央へ持ち込むと「浦和の選手が一斉に下がっていくのが見えた」と、田中はすっとその場に足を止めた。
この瞬間、浦和の3バックとボランチは、ボールホルダーの松田と連動しながら中央に飛び込んできたMF奥埜博亮の動きに目を向けており、ペナルティーエリア外の広大なスペースに立ち止まった田中は完全にフリーの状態となった。
松田からボールが渡ると、田中は正確に左足でコントロール。そしてすぐさま右足を一閃。ボールはドライブしながらゴール左隅に突き刺さった。
「ボールを受けた瞬間、周りには誰もいなくて、『打てる』と思った。完璧でしたね。決めればヒーローになれるシチュエーションだと思って入りましたので、結果が出て良かったです」
試合後、田中は笑みをこぼしながら快心のゴールを振り返った。だが、すぐに「これを続けてやらないとスタメンの道は開けないし、これを続けることが大事だと思います」と気を引き締めた。