“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
ベンチ外、J3も経験した田中亜土夢。
劇的ミドルの裏にあった葛藤と自信。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2019/09/17 19:00
J1第26節浦和戦、緊迫した展開の中で投入され、決勝ゴールを奪った田中亜土夢。昨季苦しんだベテランがACL出場権を狙うチームに大きく貢献した。
諦めずにやれば、必ず結果が出る。
そんな彼にこれまでの考え方を変える、大きな転機がやってきた。
'18年11月10日のJ1第32節、ホームの川崎フロンターレ戦で、18試合ぶりとなるリーグ戦出場を果たした。この試合、田中は当初ベンチスタートだったが、試合前のアップで高木が負傷し、急遽彼にスタメンの座が転がり込んできたのだった。
左サイドハーフで躍動すると、見事に1アシストをマーク。2-1の勝利に貢献すると、続く33節・柏レイソル戦、最終節の横浜F・マリノス戦で、途中出場ながら3試合連続の出場を果たした。
「昨年はずっともがきながらやっていたけど、フロンターレ戦で結果を出したことで、『諦めずにやれば、必ず結果が出る』ということを改めて学んだ。残り2試合も出場時間はわずかだったけど、(これまで)ベンチ外だったことを考えれば、試合に出て結果を出せば、必ず自分の立場も変わるということを実感できた」
「本当にここからですよ」
第8節・清水エスパルス戦以降はすべての試合でベンチ入りするも、冒頭で触れたように今季のリーグ戦スタメン出場はまだ1試合もない。しかし、僅かな出場時間にも関わらず、ひたむきにサッカーに取り組んできた。
「たとえ残り時間が少なくても、全力でやりきれば、必ず何かしらの結果が出る。少ないチャンスで結果を出せば、今後につながる。もう歳も歳なので、このチームでプロサッカー選手として生き残りをかけて、全身全霊を傾ける。だからこそ、どんな状況でも、結果に対するこだわりは物凄くあります」
ブレない信念と反骨心を持ち、真っ直ぐに歩み続ける者に、サッカーの神様が「結果」をもたらしたのは必然のことだったのかもしれない。田中亜土夢が放った決勝弾は、これまでの彼の姿勢を肯定するものであり、プロサッカー選手としての強烈な自己主張を見せつけた瞬間でもあった。
「この壁を超えたら、絶対にもっと成長できる。本当にここからですよ」
このゴールをきっかけに、スタメンを勝ち取り、さらに結果を出す。出番に飢えた経験豊富なアタッカーの真価は、まさにこれから問われる。