甲子園の風BACK NUMBER
甲子園、高野連は悪者なのか。
米・高校野球事情を調べてみると……。
text by
太田俊明Toshiaki Ota
photograph byHideki Sugiyama
posted2019/09/16 11:00
2019年の夏も甲子園は大きな注目を集めた。その中で投手の健康問題については今も議論が続いている。
知られざる米国の投手育成事情。
昭和9年に全米オールスターチームの一員として来日し、弱冠17歳の沢村栄治(この年の夏の甲子園に出場)擁する全日本軍と戦ったベーブ・ルースは、帰国後に日本野球の印象を「守備はうまい。ピッチャーにいいのがいるが、打つ方はさっぱりだ」と語っている。
つまり、黎明期から日本野球の特徴は投高打低であり、その傾向はいまも変わらない。現在、メジャーに在籍する日本選手は、二刀流の大谷を除いて全員が投手である。韓国で開催されたU18W杯でも、日本投手陣の力は球威、制球力とも世界に屹立していた。
このところ、日本野球は、世界の野球先進国で唯一球数制限のないガラパゴスと揶揄されているが、「甲子園というシステム」が、100年を超えて日本に投手王国を造り上げてきたのも歴史的事実なのである。
一方、球数制限先進国である米国の投手育成事情はどうだろう。
杉山孝宏氏の記事「米国でも高校生投手の“酷使”が問題に…近年のデータで浮上する『恐るべき事実』」(AERA dot./2018年12月17日)によると、「メジャーリーグ公式サイト『MLB.com』が選んだ18年のトッププロスペクトのうち高卒投手のみ上位11人を抽出すると、驚くことに4人がトミー・ジョン手術を経験。さらに肩やひじなどの故障に泣かされたのが3人もいる惨状で、今季までにメジャーで登板したのは1人という状況だ」という。
高卒間もない投手に限らず、メジャー・リーグ全体をみても、毎年20人前後の投手がトミー・ジョン手術を受けているが、日本のプロ野球では毎年2、3人といったところだ。
球団数の違いや、トミー・ジョン手術に対する考え方の相違などを考慮しても、ガラパゴス日本の投手の方が、致命的な故障が少ないと言えるのではないか。
真似ばかりでなく、よいところは残す。
投手王国を築いてきた日本の伝統的な投手育成法は、投げ込みでフォームを作り、足腰肩を鍛えていくのが基本である。多くの球を投げる練習法に耐えられるよう、上体に頼らず、下半身と身体全体を使った無理のないフォームが身に着いていく。バランスのよいフォームは、制球の良さにも通じる。
もちろん、身体のできていない幼少期に過剰な投げ込みは厳禁すべきだが、高校生になれば、それぞれの身体の成長に合わせて、ある程度の投げ込みは必要ではないか。単純にアメリカの球数制限を真似るのではなく、投手王国日本を築いてきた、日本の投手育成法のよいところは残していくべきだろう。