スポーツ百珍BACK NUMBER
浦和レッズは“硬派”をやめたのか。
「観客1万人減」からの新たな挑戦。
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph byURAWA REDS
posted2019/09/13 11:40
さまざまな企画が催される埼玉スタジアム2002の南広場。この日は埼玉高速鉄道とコラボしたミニSLが多くのちびっ子たちを乗せて走っていた。
ピッチ外で「また来よう」を増やす。
その一方で、実際にやってみると想定外のこともある。
8月4日の名古屋グランパス戦でのこと。様々な銘柄を用意したビールフェスタを開催した。ただ最近の酷暑を踏まえて日陰スペースを作ったところ、ファンが続々と集結。1000人単位が集い、超人気ビアガーデン状態になったのだという。あまりの盛況ぶりに、「キックオフ前には全銘柄が完売になってしまいました……」(関口さん)
こんなハプニングはあれど、イベント自体はほぼ好評のようだ。そこに関口さんは手ごたえを感じつつ、勝ち負けを超えた部分が自分にとっては勝負なのだと心がけているという。
「僕らはピッチでの勝ち負けに対してはどうにもならない部分があるので、それ以外のところを楽しんでもらうには、を突き詰めています。試合前に楽しんでもらって、試合を90分間見てもらって、結果は勝って次につながるのが一番理想なんですけど、このイベント楽しかったからまた来ようねって言ってもらえることが僕の今の役目だと思っています」
実際「イベントのおかげで、負けたけど心が少しだけ安らいだ」というファンの声を聞いたこともある。
そのことを伝えると、星野さんはこのように話していた。
観客の思考には複数の軸がある。
「勝ちにこだわるのがプロクラブの使命だし、そこからは絶対に逃げられない。勿論、逃げるつもりもない。ただ『浦和レッズとはこういうものだ』という定義を、クラブ内の僕たちがいつからか、非常に狭い範囲で強く決めつけ過ぎていたのかもしれません。
俯瞰で考えてみると、ファン・サポーターの方々の思考には複数の軸がある様に感じます。例えばその人がクラブを愛する熱量を表すコア度と、サッカーへのストイックさを表すコア度が同じとは限らないとか。“サッカーだけで良いんだ”という人の場合、熱量、ストイック度の両方が高い。今まで僕たちはサポーターの方々について語ったり考えたりするとき、そういう方をイメージすることが多くて、『熱量が高い方たちはみんな、ストイック度も高い』って決めつけてしまっていた。
だけどレッズのことめちゃくちゃ好きなんだけど、ポップな楽しみ方が好きな人もいる。熱量がすごく高い一方で、ストイック度でいうと、もう少し“ゆるやかに1日を楽しもう”と考えている。南広場などでのイベントを喜んでくださるのは、必ずしも応援歴の浅い方ばかりではなかった。そういった発見もできました。
ある意味で“近視眼的に真面目にやりすぎていた”部分について、少し考える角度を変えてみたり、柔軟性を以て考えてみたり、多眼的な視点で見ようと意識する、そういう勇気や想像力を持つことも必要だと思います」
大槻毅監督体制のもとでレッズは一進一退のシーズンを送っている。その戦いの場に1人でも多くのファン・サポーターが来てほしいから――。
今までの考え方を変えたわけではない。でも、レッズの中の人たちはこれまでとは違う勇気を持っている。