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浦和レッズは“硬派”をやめたのか。
「観客1万人減」からの新たな挑戦。
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph byURAWA REDS
posted2019/09/13 11:40
さまざまな企画が催される埼玉スタジアム2002の南広場。この日は埼玉高速鉄道とコラボしたミニSLが多くのちびっ子たちを乗せて走っていた。
平均観客数は全盛期から1万人減。
星野さん、率直に聞いちゃうんですが、絶対“ライト層狙い”にシフトしてますよね?
「これは大前提なんですが、僕たちはピッチ付近では極力“柔らかめの企画”をやらないし、マスコットも登場しない。スタジアム内の雰囲気を柔らかく変えてしまおうだなんて全く考えていません。このスタジアムの熱狂は、ファン・サポーターの皆さんと僕たちにとって最大の財産だと考えています。『レッズって柔らかくなっていくんですね』と思われたかもしれませんが、そういうことではないんです」
……あれ、やっぱり硬派なのか。しかし、星野さんはこのように続ける。
「ただ、硬いか柔らかいかの二者択一ではなく、多面性や多眼的な視点を大事にしたいと考えているんです」
かつて浦和は、1回目のACL制覇などを果たした2000年代中盤に、平均観客数4万5000人を超えた時期もあった。しかし2018年は3万5000人台だ。3万3000人台だった年もあるので、昨季は持ち直した数字ではある。ただ言い方は厳しいが、約1万人の足が離れているのも事実。“レッズバブル”の状態が終わり、あらためて集客を考える段階に入ったのだ。
「浦和レッズには、2万人強のシーズンチケットホルダーの方がいらっしゃいます。こうした方々を中心とした、既存のファン・サポーターの方々は私たちにとって宝物です。
ですがそれと同時に、キャパシティが6万3700席というアジア最大級のサッカー専用スタジアムをホームスタジアムとする私たちは、既存のファン・サポーターの方々と共有してきた空気感を大切にしながら、もっといろんな趣味、嗜好、価値観を持った方々にも来ていただける環境作りをしてもいいんじゃないか、と。クラブ内で侃々諤々議論を重ねた結果、こういった取り組みを試みることにしたんです」
「席割りの細分化」の狙い。
試みは多岐にわたっている。
例えば、8月23日の松本山雅戦では、数量限定のタピオカミルクティーを発売したのだ! ……いや、それよりも象徴的なのは、席割りの細分化、南広場のエンターテイメント化である。
前述した企画チケットだけでなく、浦和は今季から席割りを細分化した。その中の1つに「ウェルカムシート」というものがある。クラブが「はじめての観戦の方におすすめのお席」と明記しているこの席は、選手やクラブについて説明してくれるコンシェルジュを常駐させている。そして大人でも2000円台、子供なら750~1200円という、自由席とほぼ同価格の設定にしてある。これには明確な狙いがあるのだという。
「初めて来る方の多くは、まずはお試しでと一番安いチケットである自由席を買われます。そしてその方たちの中には、心の準備が出来ないままに世界のトップ5とも評される浦和レッズのゴール裏に入り、大きな声と手拍子で応援する環境に身を投じることになります。勿論、その体験が必ずしもネガティブなものになるとは言い切れませんが、ご本人にとっても、そして既存のファン・サポーターにとっても不必要なストレスが生じてしまう可能性は否定できません。
ブランドイメージ調査に紐付くグループインタビューで、普段ゴール裏で応援してくださっているサポーターの方から『レッズはもっと家族連れで来やすいスタジアムにした方がいいよ!』とおっしゃっていただいたことがあります。その時に、『ぜひそれを目指したいと思ってるんですけど、そうすると例えば、コンコースを子供たちが走り回ったり、レッズのことをあまり知らない方も皆さんの近くで観戦される可能性も出てきますよね』とお伝えすると、『うーん、それは……』という反応を示されていました。
その方が、子供たちやレッズの事をあまり知らない方には埼スタに来てほしくないと思っている訳ではないにもかかわらずです。このやり取りからも、来場者の多様な要望にマッチする多様な観戦環境を、私たちが作れていない、作らなければならないということを感じたんです」
熱心にチームをサポートしたいサポーターと、ちょっとカジュアルにサッカーを愉しみたいファン。それぞれにマッチした環境をきっちりと整備することにしたのだ。